202 / 589
番外編 響夜side
1-6
しおりを挟む
***
そして、サクラは無事に出産した。
身体があまり丈夫ではない、と聞いていたから、他の研究者や医師達から「安産で母子共に健康」と聞いた時は心から安堵した。
けど、僕がサクラと子供に会いに行くまでには暫く間が空いた。
理由は二つ。
一つは、出産直後は親父が何かとサクラの元を訪れていた事から、鉢合わせするのを避ける為。
もう一つは、母親になったサクラを見たくなかったんだ。
そんな理由から、様子が気になりながらも月日が過ぎて……。結局、僕がサクラの元を訪れたのは出産してから三ヶ月後の事だった。
なかなか訪れなかった僕を、サクラは少しも責めたりせずに、以前と変わらない笑顔で迎えてくれた。
しかし。
そんな彼女を目にした僕は、この日まで訪れなかった事を心の底から後悔した。
子供を生んで変わってしまうと思ったサクラが、最初に出逢った時と同様、良い意味で僕の想像を追い越していたからだ。
赤ん坊を腕に抱いてベッドに座り、優しく微笑む彼女はまさに聖母そのもので……。僕の心を、また一段と掴んでいった。
「響夜君。「咲夜」って言うの、よろしくね?
ほら、サクヤ。お兄ちゃんが会いに来てくれたわよ~?」
そして、サクラが大事そうに抱く赤ん坊。
親父に似て目付きが悪く、見るからに悪どい事を考えていそうな自分とは全く違っていて、サクラをそっくりそのまま写し取ったような美しい赤ん坊だった。
どう触れていいのか分からない僕をサクラと同じ薄水色の瞳に映した赤ん坊は、届くはずもないのに短く小さな手を伸ばして来る。
叩いたら、簡単に消せるーー……。
小さくか弱いその存在は、自分からしたら雑魚そのものだった。
……でも。手を近付けてやると、僕の指をきゅっ、と握り締めた赤ん坊が微笑った。
その笑顔を見たら、分かったんだ。
ーー……そっか。
コイツも、戦闘能力なんて必要ないな。
「……僕が護ってやるよ」
「本当?」
「ああ。サクラもサクヤも、僕が護る」
護りたいものが出来たーー。
それは完全に、魔物とは違う人としての心だった。
そして、サクラは無事に出産した。
身体があまり丈夫ではない、と聞いていたから、他の研究者や医師達から「安産で母子共に健康」と聞いた時は心から安堵した。
けど、僕がサクラと子供に会いに行くまでには暫く間が空いた。
理由は二つ。
一つは、出産直後は親父が何かとサクラの元を訪れていた事から、鉢合わせするのを避ける為。
もう一つは、母親になったサクラを見たくなかったんだ。
そんな理由から、様子が気になりながらも月日が過ぎて……。結局、僕がサクラの元を訪れたのは出産してから三ヶ月後の事だった。
なかなか訪れなかった僕を、サクラは少しも責めたりせずに、以前と変わらない笑顔で迎えてくれた。
しかし。
そんな彼女を目にした僕は、この日まで訪れなかった事を心の底から後悔した。
子供を生んで変わってしまうと思ったサクラが、最初に出逢った時と同様、良い意味で僕の想像を追い越していたからだ。
赤ん坊を腕に抱いてベッドに座り、優しく微笑む彼女はまさに聖母そのもので……。僕の心を、また一段と掴んでいった。
「響夜君。「咲夜」って言うの、よろしくね?
ほら、サクヤ。お兄ちゃんが会いに来てくれたわよ~?」
そして、サクラが大事そうに抱く赤ん坊。
親父に似て目付きが悪く、見るからに悪どい事を考えていそうな自分とは全く違っていて、サクラをそっくりそのまま写し取ったような美しい赤ん坊だった。
どう触れていいのか分からない僕をサクラと同じ薄水色の瞳に映した赤ん坊は、届くはずもないのに短く小さな手を伸ばして来る。
叩いたら、簡単に消せるーー……。
小さくか弱いその存在は、自分からしたら雑魚そのものだった。
……でも。手を近付けてやると、僕の指をきゅっ、と握り締めた赤ん坊が微笑った。
その笑顔を見たら、分かったんだ。
ーー……そっか。
コイツも、戦闘能力なんて必要ないな。
「……僕が護ってやるよ」
「本当?」
「ああ。サクラもサクヤも、僕が護る」
護りたいものが出来たーー。
それは完全に、魔物とは違う人としての心だった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?
Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。
最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。
とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。
クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。
しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。
次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ──
「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
そう問うたキャナリィは
「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」
逆にジェードに問い返されたのだった。
★★★
覗いて頂きありがとうございます
全11話、10時、19時更新で完結まで投稿済みです
★★★
2025/1/19 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、今続きを書こうかと考えています(*^^*)
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる