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第9章(5)雪side
9-5-4
しおりを挟む「……気まぐれだ」
「え?」
「今、親父からはお前に関する命令は受けてない。
……だから、気まぐれだよ」
だから、気まぐれだよーー。
その言葉が、「だから、安心しろ」って聞こえたのは、オレの気のせいなんだろうか?
そんな想いからまたじっと見つめてしまっていると、響夜はポケットから何かを取り出して……。オレの左右の耳の穴を塞ぐようにはめた。
それを着けたら、周りが少し静かになる。おそらく、耳栓のような物。
「やる」
「え?」
「音、聞こえ過ぎて疲れるだろ?」
「……っ」
その、響夜の言葉と行動に胸をジンッと打たれた。
大した意味はないのかも知れない。彼の言う通り、この一連の事はただの"気まぐれ"なのかも知れない。
でも、何だか響夜がすごく自分の事を分かってくれている気がして……。気が、緩んだ。
「てか、紫夕さんはどうしたんだよ?はぐれたのか?
まったくお前はグズ…………ーーっ、て、オイ!」
響夜がオレを見て慌てる。
オレが、急に泣き出したからだ。涙がボロボロ溢れて来て、拭っても拭っても止まらない。
「っ、たく……どうしたんだよ?
ケンカでもしたのか?紫夕さんに、泣かされたのか?」
別に響夜に話すつもりなんてなかった。
けど、響夜が頭をポンポンッて叩きながらそう聞いてくれるから、オレは首を横に振りながら、つい口を開く。
「ちがっ……、オレ……ッ、オレがーー……っ」
でも、溢れ出した涙が邪魔をして上手く言葉にならない。
必死に涙を止めようとしていると、その最中に響夜はクルッと背を向けて歩いて行ってしまった。
きっと呆れて、面倒臭いって思ったんだーー……。
立ち去ってしまった彼を見て、そう思った。
思い返せば、助けてもらったし、耳栓も貰ったのに一回もお礼も言っていない。
自分の事でいっぱいいっぱいで、そんな事にすら頭が回らなかった。
けど、そんな自分に嫌気が差しながら涙を拭い続けているとーー……。
「ーーオイ。コレ、持て」
!……っ、え?
再び聞こえた響夜の声。
ハッとして顔を上げると、目の前にあったのは水色と桃色のアイスクリーム。
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