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第9章(4)雪side
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しおりを挟む紫夕から離れても大丈夫、なんて、何を自惚れていたんだろうーー……。
「あの、お客様?……大丈夫、ですか?」
「!っ、……ぁ」
「テーブルお拭きして、すぐに新しいお水とおしぼりお持ち致しますね」
「……っ、は、ぃ」
時間が止まったように紫夕が去って行ってしまった方向を見つめていたら、店員さんに声を掛けられて我に返る。
そして、声を掛けられて自分の置かれている状況を思い出したら、急に身体が震え出した。
っ、……どうしよう。
こんな人が多い場所に、知り合いも近くに居ない状態で残されたのは初めて。
オレはただただ俯いて……。店員さんが片付け終わるのを固くなって待っていると、辺りのお客さんの声が耳に入ってくる。
「嫌ねぇ、痴話喧嘩かしら?」
「全く、迷惑だよな~」
それは、小さな声だけどオレにはハッキリ聴こえて……。
「それにあの子、店員さんに任せっきりでどんな神経してるの?」
「"すみません"とか、言えないのかな?」
「さっきチラッと見たら、何か異人さんっぽかったぜ」
「本当に?店内でフード被って、顔隠して……なんか怪しくない?」
ーー……ッ。
みんなが、オレの事見てるーー。
そう思ったら動悸がしてきて、胸が苦しい。
俯いても、耳を塞いでも、収まらない。
怖い、ッ……苦しい、……。
っ……紫夕、助け……ーーッ。
心の中でその名を呼び掛けて、ハッとする。
あんな酷い事を言っておいて……。紫夕の為に離れるとか考えてたクセに、結局自分は彼を求めている。
彼が傍に居てくれなきゃ平常心で居られなくて、息もまともに出来なくなる程に不安に陥っている。
……っ、オレ……馬鹿、だッ。
こんなに心が弱い自分が嫌になった。
オレは席を立ち上がると、その場から逃げるように駆け出して、店を出た。
……
…………。
何が、オレがいない方が紫夕は幸せになれる、だよ。
何様のつもりで、紫夕にとっての幸せを考えた?
そんな、相手の事を優先に気遣える程、オレは何も出来ない。
オレの方が散々、紫夕に甘えて、その存在に助けられてるのに、何を偉そうに紫夕の為とか言ってるんだよーー……。
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