177 / 589
第9章(2)雪side
9-2-3
しおりを挟む靴を履いて玄関を出ると、家の外に止めてあったのは車。
「ホラ、乗った乗った!シートベルトしっかりしろよ?」
助手席の扉を開けてもらって乗り込むと、紫夕が運転席に座ってオレ達は出発した。
実は、車に乗るのは嫌いじゃない。
風を切りながら早く、遠くに行けて、色んな景色を見られるから。それに……。
紫夕、運転出来たんだ。
守護神に居た頃は、現地までは専用の運転士さんがいたから紫夕が運転している姿を見るのは初めて。
気乗りせず出発したが、大好きな人の新たな発見に少し嬉しくなり表情が緩みかけた。
けど、ふと……。ハンドルを握る紫夕の左手を見て、オレの気持ちはまた沈む。
指輪、してない……。
どうして気付いてしまったんだろう、と思った。
守護神にいた頃、恋人になって初めて一緒に本部に来る市場に行った際に、紫夕が買ってくれた三日月が刻まれたシルバーのペアリング。
でも、目覚めた時には指にはまってなくて、紫夕が渡してくれたオレの私物の中にもなかった。
買って貰った際には、紫夕もその指にはめてくれていたのに……。今は、はまっていない。
捨てちゃったの、かな……。
恋人になってから初めて紫夕がくれたオレの宝物で、初めてのお揃いの物だった。
それなのに、今はもう、どちらの指にもはまっていない。
……仕方ない、よね。
そう思いながらも、胸がズキンッと痛んで重くなってくる。
オレと紫夕は結婚出来ない。
結婚して、夫婦になるから幸せな訳ではない。
一緒に居られたら、それだけでいいと思っていた。
でも。
あの指輪の存在が、いつ変わってしまうか分からない彼の気持ちを確認出来る、唯一の目に見える形だった。
紫夕がオレを選んでくれた、って安心出来る証だったーー……。
その証が消えてしまった事で、オレは完全に不安定になって……。自信がなくなってしまっていた。
……
…………。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる