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第8章(4)雪side
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しおりを挟むそれなのに、記憶を失っていたオレ……。サクヤの事も、紫夕は受け入れて、優しくしてくれていた。
あれがおそらくスノーフォールが言っていた「オレじゃないオレ」。
自分だって辛くて大変なのに、サクヤに寄り添って、分かろうとしてくれて、愛してくれていた。
更に、親友だと思っていた風磨さんの豹変。
その事だってショックな筈なのに、紫夕は、オレの事を1番に想ってくれていた。
いっぱいいっぱい涙を流して、辛い想いをしたのに……、……。
……
…………衝撃過ぎて、涙も、でなかった。
と、言うか、オレには泣く資格なんてないんだ。
だって、全部全部、オレのせいなんだからーー……。
オレがいなければ、紫夕のこの辛い時間はなかった。
紫夕は今も守護神の隊長で、みんなの人気者で……。自分の父親の仇の下で働く、なんて屈辱を感じる事もなかった。
杏華が傷付く事も、海斗が泣いて、紫夕を恨む事もなくて……。
そうだ。
オレが生まれなくて、母さんが研究所を抜け出そう、って思わなければ……。風磨さんのお父さんが、裏切り者になる事も、死ぬ事もなくて……。
きっと、紫夕と風磨さんはずっと親友でいられた。
ーー……オレ、何で生まれてきちゃったんだろう?
おまけに……。
紫夕がこんなに自分の人生を懸けてオレを選んでくれたのに、何も出来ない。
奪うだけ奪って、自分の限界がきたら……。また目の前から消えて、悲しませるんだ。
「……、……。
オレに出来る事、って……なに?」
スノーフォールは言った。
「現世に戻って生きなさい。お前なら、それが出来る」って……。
「……っ、何も、出来ないよ」
オレが出来るのは、紫夕をまた泣かせてしまう事だけ。
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