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第8章(3)紫夕side
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しおりを挟む最悪だーー……。
風呂場で熱いシャワーを頭からぶっかけながら、俺はさっきの自分を反省した。
雪が帰って来てくれて嬉しかった。
雪が求めてくれて嬉しかった。
可愛いくて、愛おしくて……。俺だって、あのまま雪だけを感じて満たされたかった。
……けど。
みぞおちに刻まれた傷跡を見たら、サクヤの事が思い浮かんだ。
だって、つい、昨日の朝まで……サクヤは居たんだ。この風呂だって、前の夜に一緒に入ったばっかりなんだ。
期間にしたら、俺とサクヤが過ごした時間は二週間もない。でも、簡単には忘れられない。
雪はサクヤで、サクヤは雪。
俺を救う為に俺と出逢ったサクヤの記憶が消えてしまっただけで、サクヤが死んだ訳じゃないーー。
そう、頭では分かってる。
雪を幸せにする事が、同時にサクヤを幸せにしている事にも繋がる。
だから、雪とこれからずっと一緒に……。命が尽きるまで生きていこう、ってもう一度決めたんだ。
それなのにーー……。
「たくさんやさしくしてくれて、ありがとう。
おうどん、ぶちぶちだったけど、ほんとうにおいしかったよ?
……もういっかい、たべたかったなぁ」
「こんどうまれかわったら、しゆーのおよめさんに……なりたいな」
あの可愛い声が、可愛い笑顔が、耳にも瞳にも、心にも焼き付いてる。
このまま俺だけ、幸せになっていいのかーー?
それに、サクヤだけじゃない。
ここに辿り着くまでに、俺のせいで傷付いたのは……、……。
そう思ったら、俺は雪にあれ以上触れられなかった。
「……変に、思ったよな?」
雪は頭が良いから、俺に何も言わなかった。
風呂の準備が出来た事を伝えたら、ただ「ありがとう」って微笑って……。素直に入って、上がったら俺に「紫夕も入ってきたら?」って、また微笑ってくれた。
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