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第7章(3)紫夕side
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しおりを挟むそれは、サクヤと一緒に暮らし始めてからは不思議と湧き上がってこなかった筈の感情だった。
一緒に生活していても……。そう、例え抱き合っても、一緒に風呂に入っても、一緒に同じベッドで眠っても、ここ暫く湧き上がって来なかった筈の感情だったんだ。それなのに……。
ーー……っ、雪。
俺の心と身体が、愛おしい人を求めて叫んでいた。
きっと、俺は本能的に気付いていたんだ。
もう、"サクヤ"は消えてしまっている事。
そして、今自分の目の前に居て、自分が欲情している相手が誰なのかを……。
「っ、……けほッ」
「!っ、……サク、ヤ」
それでも、まだ自覚していない俺は確信に変わるまで「サクヤ」と呼んでいた。
繰り返していた口付けに反応し、咳き込んでいた愛おしい人と瞳が重なる瞬間まで……。
「サ……クヤ?」
「っ……」
「サクヤッ、大丈ーー……」
「ーー……し、ゆう?」
薄っすら目を開けた愛おしい人が、朧げな瞳に俺を映し、俺の名前を呼んでくれた。
胸に響く、待ち望んだ声ーー。
その、ずっと聴きたかった懐かしい優しい響きが、全てを教えてくれた。
そしてそれが、俺の確信に変わる。
「紫、夕……?」
「ッーー……。
……、っ…………ゆ、き」
俺と雪の恋が、結末に向かって再び動き出した瞬間だったーー。
たくさん迷って、たくさん選択肢を間違えたと思ったけど、これだけは胸を張って言える。
この時。この先もう一度お前と生きていく人生を選んだ事に、1ミリの後悔もなかった、ってーー……。
誰がどう言おうとも、他人の目にどう映ろうと、俺は雪と居られて幸せだった。
……
…………。
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