149 / 589
第7章(3)紫夕side
7-3-1
しおりを挟むこの出来事が、スノーフォールが俺に見せた夢ならばどけだけ良かっただろうーー。
でも。
どれだけ泣こうが、喚こうが、自らを痛めつけようが、状況は変わらない。
俺を救う為に、サクヤが消えてしまった現実が変わる事はないーー。
それでも、俺は自分の体力に限界がくるまで止める事が出来なかった。
草の上とは言え、拳を叩きつけ続けた結果。俺の手は打ち身と切り傷で血が滲んでいた。
そんな俺の前に、ヒュゥ……ッと吹く冷たい風。
『モウヤメロ……』
その風に乗って、スノーフォールの声が聞こえた。俺はその声に瞬時に反応すると、辺りを見渡す。
けど、姿は見えない。
確かに、その辺りにいる気配はするのに、スノーフォールの姿は見付からなかった。
でも、構わない。
そんなの、どうでもいい。
「……っ、……ろして、……くれ」
俺は、その姿の見えない存在に縋るように願った。
「たの……む、っ……俺を…………殺して、くれッ!!」
悲しみと痛みに締め付けられて、掠れる声。
胸が痛いのか、喉が痛いのか、もう分からない。
俺を殺してくれーー……。
こんな事を願ってはいけないと、頭では分かっていた。
でも、それでも、そう願わずにはいられなかった。
もう、それ以外、自分が今の辛さと苦しみから解放される術はないと思ったんだ。
「殺してくれ」と、うわ言を呟きながら蹲る俺に、スノーフォールが語り掛けてくる。
『アノコノオモイ、ムダニスルノカ?
アノコガギセイニシタノハ、オマエトノシアワセナオモイデダ』
頭の中に直接響いてくるような声で、スノーフォールは俺に語った。
自分が人間に抱いた憎しみの念いによって生まれた力を相殺する為に、サクヤは自らの幸せな想い出を代償に払ったのだ、とーー……。
幸せな想い出。
それは、俺と過ごした時間の、全ての記憶だった。
病室で出逢い、俺が毎日のように通った事。
散歩に行こう、と連れ出し、一緒に桜を見た事。
そして、一緒に暮らし始めて、車に乗り、買い物に行った事。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開


愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる