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第7週(2)紫夕side
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しおりを挟む天の使いとして人間界に遣わされ、神の心を人間に、人間の願いを神に伝え、優しく労わり深いと言われる清らかな天使と違って、一般的に妖精は極めて人間に近い性質をもち、良心や節操に欠けることが多い。
気まぐれで、人間からの親切には大げさな返礼をし、邪険にされると手酷い仕返しをするというのが妖精。
またこの国では、妖精は人に夢を見せてくれ、また時に夢を奪う、不思議な存在だと言い伝えられていた。
スノーフォールは、命を奪う際に夢を見せるーー。
どんな夢かはその者によって異なるが、その夢の中で眠るように命を奪っていくらしい。
そんな事から、スノーフォールは天使ではなく「妖精」と呼ばれていた。
……
…………さて。
俺は、どんな夢を最期に見せてもらえるのかーー?
そう思った時。
地面に倒れたまま薄っすら開いた瞼の隙間から見えたのは、造りかけのシロツメクサの花冠だった。
不思議だ。吹雪で真っ白な世界の中で、その花冠だけは色鮮やかな緑色と少し黄ばんだ白色。
その色を映した瞬間ーー……。
「ーーダメッ!!」
聞きたかった、可愛い声が聞こえた。
「ダメッ!!
しゆーのいのちは、うばっちゃダメッ!!!」
その声にハッとして、力を振り絞って顔を上げると……。
「しゆーはやさしいんだ!!ボクのこと、たすけて、いっぱいい~っぱい!やさしくしてくれたんだッ……!!」
両手を広げてそう叫ぶ、サクヤの背中が見えた。
名前を、呼びたかった。
でも、痛みはないのに、口は凍ったように動かなくて、喉も凍ったように声が出せない。
そんな俺の耳に、もう一人の声が聞こえた。
「ムダダ、アキラメロ……」
これは、スノーフォールの声だ。
サクヤとスノーフォールが、会話をしているーー?
「コノバハモウ、ワタシノチカラニ、オオワレタ。
トメルコトハ、デキナイ……」
この場はもう、私の力に、覆われた。
止める事は、出来ないーー……。
その言葉を聞いて、ボンヤリする意識の中で何となく理解出来た。
さっきまで居た原っぱは、スノーフォールの力で雪と氷の世界にされてしまったのだ、と……。
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