スノウ2

☆リサーナ☆

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第6章(2)サクヤside

6-2-5

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「ーーそんなモノはただの錯覚だよ」

「!!っ、ぁ……ッ」

あまりの衝撃に、持っていた作りかけの花冠が手から離れて地面に散らばった。
突然、喉元を思いっきり掴まれたのだ。
ものすごい力。風磨ふうまさんは片手なのに、両手で掴み返して振り解こうとしてもびくともしない。

「君は悪い子だな。大人しく一緒に来れば、優しくしてやったのに……本当に、馬鹿だ」

「っーー……」

そう言う、風磨ふうまさんの表情は一変していた。
口元は笑っているのに、目付きが怖い。冷たいギロッとした目で、ボクを見ながら言う。

「いいか?お前は普通の人間じゃない。ただ本能のままに生きる魔物と一緒なんだ。
そんなお前が恋だの、愛だの……ククッ、笑わせるなよ」

精一杯の抵抗を"無駄だ"と言わんばかりに嘲笑あざわらいながら、更に力を込めてボクの身体を持ち上げた。
首が絞まって、声も出せなければ呼吸も出来ない。

「黙って僕について来て、僕のモノになればいい。
言う事を聞けば、毎日可愛がってやる。優しくしてやる。紫夕しゆうより"良い事"たくさんしてあげるよ」

ゾクリッとする表情が、ボヤける瞳に映る。
研究者達と同じで、完全に自分の事を"実験動物"にしか見ていない目。

「君だっていつか"ある時期"が来たら忘れるさ。君の母親が三月愛する男ではなく橘さん別の男に抱かれたように……」

「っ、……ーーッ」

違うーーッ。

母さんは、三月みづきさんの事を忘れてなんていなかった。
三月みづきさんが居なくなって、会えなくなってしまってからも、ずっとずっと想い続けてたんだ。

……確かに、自分達は普通の人間ではない。
でも、ちゃんと感情はある。喜びを感じる事も、悲しみを感じる事も、誰かを愛する事だって出来るんだ。
それなのに、目の前のこの人もまた、自分を己の欲を満たす為の道具にしか思っていなかった。

悲しくて、悔しくて、痛くて、苦しくて……。ギュッと瞼を閉じた目から涙が溢れ落ちた。

っ、しゆーー……ッ。

そんな時でも思い出すのは、大好きな人。
まぶたの裏に焼き付いているその人が、微笑んだ瞬間。

「ーーサクヤを放せッ、風磨ふうま!!」

その声にハッと目を開けると、背後を取って斬月ざんげつ風磨ふうまさんに突き立てる紫夕しゆうの姿が、瞳に映った。
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