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第6章(1)サクヤside
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しおりを挟む「っ、だいしょうぶ!サク、ぜんぶたべれるもん!」
涙を堪えて顔を上げると、もう一度両手でトーストを持って勢いよくかぶりついた。
そしてあっという間に完食するとお皿を手に持って椅子から立ち上がり、その様子を驚いて見ている紫夕に言う。
「あらう!」
「へ?」
「サク、おさらあらう!おてつだいする!」
お手伝いするーー。
それが、今の自分に出来る精一杯の事だった。
泣くだけじゃダメ。困らせちゃダメ。雪みたいに優しくて気遣いの出来る人になれば、きっと紫夕の傍に居られると思った。
例え紫夕の1番大事な人になれなくても、一緒に居たいーー。
出逢ってまだ間もない相手に、こんな感情を抱くのはおかしいのかも知れない。
でも、自分の心が叫んでいた。
「おお、そっか、そっか!お手伝いしてくれるのか!えらいぞ、サクヤ!」
驚いていた顔が笑顔に変わって、大きな手で優しく頭を撫でてくれる紫夕。
しゆー、だいすきーー……。
「っ、うん!サク、おりこうさんだもん!」
絶対に口に出来ない想いの代わりに、笑顔でそう言葉を返した。
このまま子供として接していれば、一緒に居られると思った。
無邪気に、難しい事は何も考えていないようにしていれば、紫夕は今のまま変わらずに居てくれると思った。
"雪"は可愛くて、綺麗ーー。
それなのに一方の自分は、色んな人に不気味がられて、身体中に傷があって、気持ち悪い……。
なら、その分。
自分は、優しくて気遣いが出来る良い子になろうーー。
そう心に決めて、その日から積極的に自分に出来そうな色んなお手伝いを始めた。食器洗い、テーブル拭き、お風呂掃除、紫雪のお世話……。
それから、おやつは食べ過ぎない、好き嫌いせず食事は残さず食べる。
しゆーと、いっしょにいたいーー……。
全ては、その想いだけだった。
"ボクとしゆー"のおわかれのひまで、あとすこしなんて……おもっても、いなかった。
……
…………。
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