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第5章(3)紫夕side
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しおりを挟む俺は昔、雪に「夕飯何がいい?」って聞かれて、「うどんでいいよ。茹でるだけで簡単だろ?」って言っちまったんだ。
けど、こうやって自分で作ってみて実感した。
何だよ、全然、簡単じゃねぇじゃんーー……。
雪の作るうどんは、熱々なのに麺にもしっかり弾力とコシが残ってて本当に美味かった。
俺が作ったやつみたいに麺つゆ薄めたやつじゃなくて、雪はちゃんと鰹節でダシ取って、醤油やら入れて作っていたのを思い出す。
俺が風呂上がるタイミングとか、仕事終わるタイミングとかしっかり見てて出来立て用意してくれて……。見栄えも、ネギと蒲鉾だけじゃなくて、卵だったりとろろだったり季節の野菜とか乗っけてくれて綺麗だったな。
「しゆー!「ゆき」ってだれー?」
「っ、え?」
その無邪気な声にハッとする。
雪の事を思い出していると、ふと口にしてしまった名前が気になったのかサクヤが首を傾げながら尋ねてきた。
「しゆー、まえも「ゆき」っていった。「ゆき」ってだれ?どこにいるの?どんなひとー?」
「ど、どんな人……って」
目の前に居ますーー。
なんて、ストレートに言う訳にはいかない。誤魔化そうとも思ったが、こういう質問攻めの時は納得するまで聞いてくるのが子供。
仕方ねぇ、な……~~ッ。
本人を目の前にしてテレる、と思いながらも、俺は口を開いた。
「雪は今、ちょっと離れた所に居るんだ。
雪は、その……か、可愛くて、綺麗で、優しくて、気遣いが出来て~……っ、りょ、料理も、上手いんだ」
これは、想像していた以上に恥ずかしい。
本人に真っ直ぐ見つめられながらこんな事を言わされるなんて、まるで拷問だ。
顔が真っ赤になっているのが自分でも分かって、「もう勘弁してくれ」と思っていると、そんな俺にサクヤが言った。
「……しゆーは、「ゆき」のことがすきなの?」
「っ、あ?!」
更に突っ込んだ質問をされて、俺はもうサクヤの顔が見れなかった。
照れた顔を見せたくなくて、うどんのお替りを注ぎに行くフリをしながら背を向けて答える。
「ああ、そうだなぁ~。雪は、俺の大事な人だ!」
照れ隠しに言ってしまったこの言葉に、サクヤが傷付いているとも知らずに……。背を向けた俺は、ただ自分の熱を冷ますのに必死だった。
……
…………。
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