93 / 589
第4章(3)紫夕side
4-3-1
しおりを挟むそれから時間が経って……。
泣き疲れたサクヤは寝ちまった。
抱き締めていたら次第に泣き声が小さくなっていって、鼻をすする音がしなくなって……。静かになったと思ったら、サクヤは俺に抱きついたまま眠っていた。
そのままの体勢じゃ辛いだろう、と思い、俺は桜の木にもたれ掛かるようにして地面に腰を下ろすと、サクヤに膝枕して上着を掛けてやって今に至る。
よく寝てんなーー……。
この体勢にしてやってから、おそらく一時間以上は経過していた。
もしかしたら、俺が引き取ってやる前の雪の時のように眠れない状態が続いていたのかも知れない。研究員や医師達に色々言われたり検査やらされてるみたいだし、きっと今の生活は落ち着かないのであろう。
とは言え。昼前の検査から連れ去って、もうすぐ二時間程。
そろそろ橘の関係者の誰かが捜しに来そうだし、本当は昼飯を食わせてからここに連れて来ようと思ってたが、検査から逃げるように出て来てしまった為サクヤは飯抜き状態。
腹減ってるよな、絶対。
そう思った俺は一旦サクヤを帰そうと、抱き締めてそっと立ち上がった。
けれど、その動作の途中で「ん~っ」とサクヤは反応すると、目を擦ってしょぼしょぼさせながらも俺を見る。
「……しゆー?」
「あ、起きたか?」
「……。どこいくの?」
「ん?一回帰ろうぜ、腹減ってるだろ?」
「っーー……。……う、ん」
一回帰ろうーー。
俺がそう言うとサクヤは一瞬で目が覚めたようにハッとして、あからさまに元気なく俯いた。言葉にはしないが俺の服をぎゅっと握り締める態度が、ハッキリと「帰りたくない」と言っている。
サクヤのその反応に胸がトクンッと鳴った。
ーー……少しだけ、自惚れてもいいか?
少なくとも研究員や医師達よりも……。目覚めてから出会ったどの人間よりも自分は好意を持ってもらえているのだと、感じた。
だから、俺はサクヤに言った。
「サクヤ、俺ん家に来るか?」
「!っ、……え?」
「俺の家で、俺と紫雪と一緒に暮らそうぜ!」
俺の言葉に、サクヤは最初喜びよりも驚いた、って感じの表情で見つめてきた。
そして、ゆっくりと、確認の言葉を口にする。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
火駆闘戯 第一部
高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。
それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。
人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。
焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。
タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
演じる家族
ことは
ライト文芸
永野未来(ながのみらい)、14歳。
大好きだったおばあちゃんが突然、いや、徐々に消えていった。
だが、彼女は甦った。
未来の双子の姉、春子として。
未来には、おばあちゃんがいない。
それが永野家の、ルールだ。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる