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第4章(1)紫夕side
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しおりを挟むそんな表情は、やっぱ見たくねぇなーー。
そう思った俺は、サクヤの頭を撫でながらデートに誘う事にした。今日は元々、その為に会いに来たんだ。
「んじゃさ、サクヤ。俺と外に行こう!」
「!……おそと?」
「ああ、俺と散歩に行かないか?」
「!っ、おさんぽっ?」
お、いい反応!!
サクヤの食い付きと笑顔を見て、俺の心も弾む。
けど、サクヤはすぐにハッとして俯くと、表情を曇らせながら「あ、でも……」って言った。
……え?俺、フラれる?!
このおじさん、いつも会いに来てウザい、とか。距離感近くてキモい、とか思われていたらどうしよう……。と、軽くショックと不安に襲われていると、サクヤが言い辛そうに言った。
「サク、おくつない……」
「へ?……く、靴?」
その意外な言葉に気が抜ける。
でも、サクヤは真面目な表情て言うんだ。
「おくつなしはダメなの。
あしがよごれたら、ダメなんだよ」
「そ、そうか……」
「よごれるのは、わるいこなの。
……そしたら、かあさん、かえってきてくれない」
「っ、……サクヤ」
母さん、帰って来てくれないーー。
その言葉に、胸が痛くなった。
今のサクヤは、母親のサクラさんが亡くなった事を知らない。一緒に旅をしていた最中に、サクラさんだけ何処かに行ってしまった、って思ってるんだ。
俺は単純に、死んでしまった、って記憶があるより辛くないと思ってたが、違うよな。
置いていかれたーー。
その気持ちだって、相当辛い筈だ。
それなのに泣かずに、サクラさんの言いつけを守りながら帰りを待つ健気なサクヤを見て、俺はまた胸を打たれる。
これは、また惚れるわーー……。
ニヤけてしまいそうなのを抑えながら、俺はサクヤをギュッと抱き締めて、そのまま立ち上がった。
「……なら、こうしよう?」
「!……しゆう?」
突然抱き上げられたサクヤは、驚いた表情で俺を見ていた。
でも、すぐに嬉しそうに微笑ってくれる。
「これなら靴がなくても足は汚れない。だろっ?」
「っ、……うん!
……あ、でも、おもたくない?」
「全然!幸せな重みだ」
「?……しあわせな、おもみ???」
俺の言葉を真剣に受け止めて首を傾げるサクヤ。俺はそんなサクヤを見て、愛しさのあまり込み上げる笑いを堪えながらある場所へと向かった。
……
…………。
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