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第4章(1)紫夕side
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しおりを挟むそりゃ、正直ショックだったさ。
雪が倒れたあの日から、俺はずっとこの日を待っていたんだから……。
後から橘や朝日から聞いた話、雪は一度仮死状態になった時の影響で記憶がブッ飛んでしまったのではないか、との事だった。
何やら難しい専門用語やらで説明されたが、俺は頭が悪いから細かい部分は理解できなかった。
……けど、ハッキリ言ってどうでもよかった。
紫雪を見て微笑った雪を……。いや、サクヤを見て思ったんだ。
ああ、俺はこの笑顔をもう一度見る為にここまで歩いてきたんだ、ってーー。
倒れる前に見た、別れを覚悟して微笑ったあんな哀しい笑顔じゃなくて。俺は幸せそうに微笑む、愛おしい人の笑顔が見たかったんだ。
もう、選択肢を間違えたりしないーー。
以前の俺ならきっと、あれこれ変に難しく考えて、選択肢を勝手に増やしていただろう。
離れた方がいいんじゃないか?
忘れられてしまったのなら、所詮俺はその程度の存在だったんじゃないか?
……とか、色々考えてややこしくしていただろう。
でも、もう大丈夫だ。
1番大切なのは、俺がどうしたいか。
自分の気持ちのままに動けばいいんだ。
雪を引き取る為に、ただそれだけの為に突っ走ってた、あの時みたいにーー……。
「……紫雪」
「え?」
「そいつはな、紫雪って名前なんだ」
俺は、そっとサクヤの膝の上に紫雪を乗せてやりながら言った。すると、サクヤはまた首を傾げて、俺を見て、紫雪を見て言う。
「し、せつ……むずかしいおなまえだね?」
サクヤがそう言うと紫雪が返事するみたいに「みゃ~っ」って鳴いて、それが何だか会話してるみたいで、俺は思わず「プッ」って笑った。
そう、俺も、やっと心から笑えたんだ。
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