スノウ2

☆リサーナ☆

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第4章(1)紫夕side

4-1-1

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静かな、二人きりの空間。
ずっと待ちわびた瞬間だったのに、愛おしい人の言葉に時が止まる。

「おじちゃん……だれ?」ーー……。

その言葉に、俺はただ見つめる事しか出来なかった。

目の前に居るのはゆきだ。
ゆきに間違いないんだ。
それなのに、その瞳が俺に「誰?」と訴え続ける。

「……、……。
!……そうだ、かあさん!」

「え?」

ゆきは暫く俺を見つめていた。
けど、辺りをキョロキョロと見渡して、ゆっくりと上半身を起こして言う。

「ねぇ、かあさんは?おじちゃん、ぼくのおかあさんしらない?」

「っ、かあ……さん?」

元々童顔だが、更に幼さを感じさせる表情。そして口調。更に「かあさん」と言う言葉に、まさか、と言う考えが頭を過ぎった。
すると、その予感が間違いではない事が、この後のゆきの言葉で確定する。

「っ……ゆき?なに、言ってるんだ?」

「……ゆ、き?」

「そうだよ!それがお前の……」

「ーーサクだよ?」

「っ、……え?」

「ぼくのなまえは、サクヤってゆーの!」

サクヤーー。
それは、俺と出会う前の……。ゆきのお袋さんであるサクラさんが付けた、ゆきの名前。

……嘘、だろ?

予想外の事態に困惑と動揺を隠せない。そんな俺を、首を傾げながらキョトンとした表情でゆきが見つめてくる。

俺の事、忘れちまったのか……?

心に浮かんだ問い掛けは、声にならない。何も言葉を発せずに居ると、反応のない俺にゆきは首を傾げて、また辺りをキョロキョロとし出した。
その時、部屋内をウロウロと歩いていた紫雪しせつが「みゃ~っ」と鳴いて、俺の膝の上に跳び乗ってくる。

「!……ねこ?」

「みぃ~」

「ねこさん!」

すると紫雪しせつを見た瞬間。それまでずっと、何処か不安そうにしていたゆきが微笑った。

ーー……っ。

そしたら、何故かな?
その笑顔を見たら、俺は不意に胸をキュッと掴まれた気がしたんだ。
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