スノウ2

☆リサーナ☆

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第3章(4)紫夕side

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ゆきが目覚めたら、もう一度、一緒に新しく人生みちを見つめ直そうーー。

不思議な事に、響夜きょうやに背中を押されてそう思い直す事が出来た俺は、ゆきの居る部屋へ向かった。
静かに扉を開けて中の様子を覗くと、俺に気付いた紫雪しせつが顔を向けて「みゃ~っ」と鳴いた。俺は「し~っ」と口元に人差し指を当てて紫雪しせつに言うと、ゆっくりベッドに近付いて傍にある椅子に腰掛ける。

……まだ、眠ってるな。

ベッドの上で仰向けに寝かされている俺の大切な人、ゆき。腕に点滴はされているが、顔色はとても術後すぐだとは思えない位に悪くない。

並外れた回復力ーー。

響夜きょうやとは少し違うものの、魔物の血を受け継いでいるゆきは傷の治りは信じられない位に早いようだ。
以前、魔器マギが暴走して俺が腕を斬り離した際も、神経を切断する程の大怪我だったにも関わらず……。ゆきはたった一晩で、普通に動かせるように回復した。
だから、今回もきっと回復は早い。響夜きょうやが言っていた「数時間後には目を覚ます」と言う言葉は、嘘ではないだろう。

医者でも研究者でない俺には、一体どんな手術をして、どんな風に集めたスノーフォールの部位パーツが使われたのか分からない。
が、たった一つだけ分かる。ゆきの左耳に着けられたピアスは、"龍の涙"の結晶を加工して造られた物だ。
美しい、透明の輝きが俺の胸を射抜く。

「……俺を恨んでくれていいから、ゆきの命を護ってくれ」

これを手にする為に消えた四つの生命ーー。

ピアスの宝石にそっと触れながら、俺は永遠にその事を忘れない事を誓った。
ゆきと共に、大切にしていこうと思ってたんだ。

ーー……けど。

「……ん、ッ」

「!……っ、ゆきっ?」

ピアスに触れていた俺の手が頬に当たった瞬間、微かにゆきの顔が揺れて、瞼がゆっくりと動く。
嬉しさよりも驚いて、思わず椅子から立ち上がって顔を覗き込むと……。虚だった目が次第に開いて、美しい水色の瞳が俺を映した。

「……、……だ、れ?」

「え、っ?」

「"おじちゃん"……だれ?」

目をぱちくりさせて、そう俺に尋ねながら首を傾げたのは、"ゆきじゃない"ゆきだった。
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