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第3章(3)紫夕side
3-3-5
しおりを挟むその視線の先に居たのは、目は笑っていないのに口元だけ笑みを浮かべた風磨。そして、その手にはサンドバッグのような麻袋が持たれていて……。「キュイッ、キュイッ」と声を上げながら、中で何かが動いていた。
するとその声に反応したように風磨の背後で、響夜の手によって拘束されたスノーフォールが激しく鳴いて暴れ出す。
っ、まさかーー……。
その光景にそう思った直後、風磨は麻袋の上の紐を解いて逆さにすると、中に入っていた物を地面に落とし出した。
中から出て来たのは三匹の、まだの小さな白いトカゲのようなーー……。
「スノーフォールの赤ん坊だ」
「っ……」
「後ろのそいつは母親だったんだよ、タイミングが良かったな。赤ん坊を使えば、さすがの化け物でも泣くんじゃないか?」
風磨が「ククッ」と、喉を鳴らして笑った。
それを見て、予感が的中して……。心からスンッと何が抜けた感じがするのに、酷く重く息苦しい。
母親、赤ん坊……。
その状況を目にして、俺は一気にさっきまで自分が討伐しようとしていたスノーフォールを見る目が変わってしまった。
傷付き拘束され、電流を流されながらも、捕らえられた目の前の我が子に必死に歩み寄ろうと暴れているスノーフォールが視線の先に映り、胸が締め付けられる。
そんな俺に、風磨が言った。
「ほら、紫夕。殺れよ」
「……っ、は?」
「母親の目の前で赤ん坊を斬り殺してやれよ」
「……な、……に?」
「欲しいんだろ?龍の涙。
大事な、愛おしい雪君の為に」
雪の、為にーー……。
風磨が、俺を試すように言っていた。
震えた心。もう自分では上手く思考が定まらなくて……。悪魔の声に、従おうとしてしまう自分がいる。
……そうだ。
俺は、雪の為にここまで来たんだ。
ここで立ち止まったら、もう、何もない。
俺はギュッと斬月の柄を右手に握り締めると歩み寄って、地面からまだ満足に歩けないスノーフォールの赤ん坊を左手で掴んだ。
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