スノウ2

☆リサーナ☆

文字の大きさ
上 下
73 / 589
第3章(3)紫夕side

3-3-2

しおりを挟む

風磨ふうま、何やってんだーー?

まばたきすら出来ない。
瞳に映る、親友が実の妹に刃を突き立てている光景を、"何かの間違いだ"と否定する。
そんな俺の前で、まるでドラマや映画のように進んで行く光景。

「っ、兄……さん?」

「悪いな、杏華きょうか。……さよなら」

別れの言葉を告げた風磨ふうまがグッと身を近付けてもう一度深く槍の刃を押し込むと、杏華きょうかの驚き見開かれていた瞳が更に開き……。「う、ッ」と言う短いうめき声の後に表情が歪む。そして風磨ふうまが槍をゆっくりと抜くと、徐々に崩れて行くように両膝を着いた杏華きょうかが、地面にドサッと倒れて横たわった。

「!っ、杏華きょうかさんッ!!」

そんな杏華きょうかに真っ先に駆け寄ったのは茶々ちゃちゃ。慌てながらも状態を診て、すぐさま応急処置を始めた。

「っ、嘘……だろ?
……ッ!何でだよっ、隊長ッ!!」

その傍らで声を震わせながら必死に問い掛けるのはアントニー。
問い掛けられた風磨ふうまは自らの魔器マギである槍ー風乱ふうらんーを振って刃に付いていた血を払うと、顔だけアントニー達の方を向けて言った。

「大丈夫だよ、すぐに死ぬような怪我じゃない。お前達が適切な処置と迅速な対応で本部まで運べば、な?
ほらほら、早くしないと血が全て流れ出てしまうぞ?」

そう言った風磨ふうまが、ニヤリと口角を上げた後に「ははははっ」とおかしそうに声を上げて笑った。

……コイツは、誰だーー?

それを見ても俺の頭は、まだ状況を受け入れられずに否定する。

これは何かの間違いだ。
これはきっと、悪い夢だ、と。

しかし、時間は確実に進んでいる。

「っ、トニー!ヤバイよッ!血が止まらないッ……!!」

「しっかり傷口押さえてろッ!!本部にすぐ連絡するッ……!!」

杏華きょうかの胸から流れ出る血が、止血に当てられた白い布を真っ赤に染め上げ、更にそれを押さえる茶々ちゃちゃの手も真っ赤に濡らしていくーー……。

「……っ、きょ……」
「ーー杏華きょうかさんッ?!!」

ようやく口を動かせそうな俺が杏華きょうかの名を呼ぼうとすると、その言葉を懐かしい声がかき消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

処理中です...