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第3章(2)紫夕side
3-2-6
しおりを挟む複雑な表情で俺を見つめるアントニーと茶々の一歩前で、杏華は隊長らしく毅然とした表情で見つめてくる。
そんな彼女に負けないように俺も見つめ返して、精一杯の強がりのような口を開いた。
「……悪いが、スノーフォールは守護神には渡せねぇ。俺がもらう」
「……」
その言葉に、杏華は何も言わない。その大きな瞳に俺を映して、ただ見ていた。
胸が、痛いーー……。
そのまま見つめ合い流れる、暫しの沈黙の時。
あまり長くそうしていたら感情の奥深くを悟られそうだった俺は、目を背け、背を向けて響夜の元へ行こうとした。
……けれど。
「雪君の為、でしょう?」
「!っ、ーー……」
その言葉に止められて、俺は泳がせるような視線をもう一度戻してしまった。
すると、俺を見つめている杏華が微笑っていた。その、全てを悟っているかのような表情に、俺は動けなくなってしまう。
決して振り向いてはいけなかったのに……。
過去を捨て切れない、弱い俺の心が天秤を僅かにまた揺らしてしまったんだ。
闇に堕ち切る事など出来ないクセに、"雪の為に"と盲目になっていた俺が招く惨事ーー……。
「話してくれませんか?全て……。
そしたら、私達もきっと力になれーー……」
「ーー駄目だよ、紫夕。守護神はしっかり排除しないと」
杏華の優しい声に被さるように、ゾクッとする、まるで死神のような低い声が俺の耳元に響いた。
その声の主は、俺が視線を向ける隙も与えずに真横を一瞬の風のように抜けて行って杏華の前に立つと……。驚く彼女の胸に、死神の釜のような槍を突き刺しながら言った。
「全ては、我が美しき花嫁の為にーー……」
けれどその言葉は、あまりにも信じられない光景に視覚に全てを奪われていた俺の耳には届いていなかった。
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