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第1章(5)紫夕side
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しおりを挟む「っーー……絶対に、目覚めさせるッ」
もどかしい、悔しい気持ちが溢れて右手に拳を作るように強く握り締めれば、腕から二の腕にかけて巻いていた包帯に血がジワジワと滲む。スノーフォールを討伐する際に負った傷だ。
閃光玉で目眩しした後、地面に倒れ込んだスノーフォールが再び飛び立つ事が出来ないよう、俺は溜め斬りでその翼を切り落とそうとした。が、スノーフォールが体勢立て直すのは思った以上に早くて……。満足な溜め斬りが放てなかった結果、翼を切り落とせる迄には至らなかった。
翼に深い傷を負ったものの、スノーフォールは鋭い鉤爪で反撃。怯んだ俺を長い尻尾で弾き飛ばすと、すぐに飛び立ち逃げて行った。
雪を目覚めさせる為にはスノーフォールを討伐し、そいつから必要な部分を手に入れなくてはならないーー。
それが、雪の父親であり、人型魔物である雪の母親サクラさんを造り出した橘が出した結論だ。
もちろん当初は、橘の力を借りるつもりなんてなかった。俺は研究室から盗み出した人型魔物の身体の仕組みなどが書かれた資料を元に、必死に自分だけで雪を救ってやろうとした。
……でも。元々研究員でもない俺がやれる事には限界があって、雪を目覚めさせる事は出来なかった。
だから、俺は橘を頼った。
親父への恨みや憎しみ、雪の母親サクラさんに託された想いを封じて……。雪が生きられる人生を選んだ。
でも、それはーー……。
「……俺を軽蔑してもいい。目覚めたら、怒ってくれてもいい。っ……それでも、いいんだ」
今俺が歩んでいる人生は、雪が望んでる人生でない事が分かってる。
最後に俺に微笑ったアイツは、自分がどうなるか知っていて、覚悟を決めて、俺に未来を託していたのだから……、……。
それでも、無理だったんだ。
雪がいない毎日なんて、俺には耐えられない。
雪が目覚めて、動いて、俺に語り掛けてくれるならーー……。
「ーー俺を嫌いになってくれてもいい。
それでも俺は、お前に生きててほしいんだよ。雪」
歪んだ愛だと思われても、構わないーー。
「……次こそ、スノーフォールを狩ってくる。
この家の近くにな?桜の木があるんだ。きっと、もうすぐ咲くから……絶対に一緒に見よう」
その瞬間まで、絶対に泣いたりしないーー。
雪が倒れて涙を流したあの日を最後に、何度も溢れそうになる涙を、俺は今日も封じたーー……。
……
…………。
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