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第10章 (2)シュウside

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目を閉じて自分の髪を掴み、ナイフを当てて切り落とそうとした時……。

「ーー勿体ねぇから止めろよ」

「!っ……ヴァロンッ?」

声が聞こえたと思ったら、いつの間にか傍にいたヴァロンにナイフを持つ手を握られていた。

「イメチェンしたいのか?
でも、俺はお前の長い髪好きだから止めろよ」

「っ……」

”好き”と言う言葉と、間近で意地悪そうな笑みを浮かべられて私は思わず動揺してしまう。
ヴァロンはそんな私の手からナイフを奪うと、クルクルと回しながら何事もなかったように隣で海を見つめていた。

ヴァロンと二人きりになるのは、この前揉めて以来初めてで……。
何だか緊張してしまって、私も彼から目を逸らすように海を見つめる。


「……。アカリさんと一緒に居なくていいんですか?」

ヴァロンと一緒に居られるのは嬉しい。
でも、素直になれない私は気遣うフリをしてそう声をかけた。

彼に迷惑をかけてはいけない。
今まで通り、一緒に居るために……。


「ん、アカリならもう寝たよ。
いいじゃん、俺が今はお前と居たいんだし?
……あ。やっぱいい香りだな、お前の髪」

問い掛けにヴァロンはあっさりそう答えると、夜風になびいて彼の頬をくすぐった私の髪に触れて目を細める。

そのヴァロンの仕草に高鳴る鼓動。

「ッ……すみません、邪魔ですね。
すぐに結びますっ……!」

慌てて髪を束ねようと紐を取り出すと、ヴァロンは私の手から紐を奪い、代わりにさっきのナイフを返すように私に渡した。
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