上 下
153 / 297
第7章 (5)ヴァロンside

5-3

しおりを挟む

病死ーー?

俺の頭に過る、別れる前のリディア。

下剋上を仕掛けたあの日。
彼女にはいつもの勢いがなかった。
何処か体調が悪いのかと、思った。


病気、だった?
あの時すでに、リディアは……。

『……真っ正面から受け止める。
それが私がアンタにしてやれる最後の事だと思ってるわ』


……さい、ご?
あの言葉は、”最期”の……意味。


『これを持っていきなさい、ヴァロン。
私の、負けよ……』

あの時差し出した白金バッジは、リディアの最期の……。俺に対する想いだった?


ーー何故、気付かなかったんだろう。
不器用なリディアが、俺に見せていた本当の姿に……。

時折見せた壊れそうな女の表情。
身体を重ねた夜、俺を見つめて求めてくれた眼差し。

リディアの愛を、見なかったのは……俺。
愛してもらえないと決め付けていた、弱い俺。

自分自身を信じられず。自信のない俺が、大切なものを見過ごしていた。

勇気を出して、言葉にしていたら……。
もっと自分から問い掛けて、伝えていたら……。
俺達は、あんなに離れなくてすんだのかな?


「弟子だったお前には、本来引き継ぐ権利が第1位にある。
……だが、今のお前には渡せん」

俯いたままの俺に、マスターが言う。

「一度バッジを捨てたお前に……。リディアの想いを簡単に継がせる訳にはいかん」

マスターはそう言って、俺の左手に何かを握らせるように渡した。

「試験は3日後。金バッジの他6名にも参加資格がある。
誰がリディアの意志を継ぐのか……楽しみだ」

パタンッ……と、扉が閉まって、マスターは部屋を出て行った。
しおりを挟む

処理中です...