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第7章 (4)ヴァロンside

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***

「……」

翌朝ーー。
俺は服を着ると、リディアが眠っているうちにここを去ろうと足を踏み出した。


「……待ちなさい。ヴァロン」

背後から聞こえたリディアの声。
俺は部屋の入り口で立ち止まったけど、顔を合わせる勇気がなくて……。ただ立っていた。

立ち止まってしまったのは、期待。
これで最後と決めておきながら、俺はまだ心のどこかで期待していた。
リディアが愛してくれるんじゃないかって……。また、前みたいに微笑ってくれるんじゃないかって……。

”良い男に、なったね!”って……。褒めて、認めてくれるんじゃないかって……。

ーーでも。俺達は決して結ばれない。
2つに別れてしまった道は、もう交わらない。


「……。
これを持っていきなさい、ヴァロン」

ゆっくり、顔だけ振り向くと……。ベッドから上半身を起こしたリディアが、掌にある物を乗せて俺に差し出していた。

「……私の、負けよ」

リディアの掌で輝く物。
それはもう、俺の欲しかった物じゃない。
幼い日、俺がリディアに貰って……。嬉しくて仕方なかった宝物じゃない。

今のリディアの掌の上には、白金バッジ。


”いつでも帰って来てもいいよ”……。
そんな想いが込められた、鍵じゃない。

”これで最後、さよなら”……。
そんな想いがこもった、白金バッジだ。


「……ククッ。ははっ……」

やっぱり、届かないんだ……。
そう、思ったら……なんか笑えてきた。


手に入らない。
1番欲しいものは……。いつも、俺の手には届かない。

俺は幼い日の、闇市場の競売の時みたいに笑ってた。
けど、一つ違うのは……。
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