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第7章 (2)ヴァロンside

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【ヴァロン16歳】

「……あの、ヴァロン君。
リディアさんから伝言だよ。
今夜家に帰ってこい、って……」

「……」

夢の配達人の隠れ家。
仕事から帰還した俺に、ギルバートが少し遠慮気味に話しかけてきた。

ギルバートは年齢が俺より6つ上で銀バッジ。奥さんがリディアと友達とかで、何かと絡んできて面倒臭い。(この時知らなかったがアカリの父親だ)

俺は休憩所の椅子に座ると、ギルバートを無視してテーブルに頬杖をつきながら水の入ったボトルに口付ける。

家に帰る気なんて、リディアに会う気なんてなかった。どうせまた、仕事に対する小言を言われるだけだ。

「……。
最近、何処に泊まってるの?」

ギルバートは俺の隣に座ると、心配そうな表情で尋ねてきた。
ギルバートは優しい男だ。天然で純粋で。
この頃の虫の居所の悪い俺にとっては、最高に当たりやすい性格だった。


「……あ、良かったら今度家に来ない?
僕の娘がね、1歳になったんだ。それはもう可愛くて……」

「ッ……うっせぇなぁ!」

俺はボトルを握り潰してテーブルを蹴り倒すと、ギルバートの胸倉を掴んで睨み付けた。

「……ガキなんかより、女の家に行くに決まってんだろ」

この頃の俺は、最低で……。依頼主や任務先で知り合った女性の家に、取っ替え引っ替えで泊まっていた。

”下手くそ”って……。リディアとキスした時に言われた事。
俺の胸を抉って、消えない。

だから、たくさん経験した。
俺は自分から誘ったりしないが、来るものは拒まない。
それなりに好みの女となら唇だけじゃなくて……。相手が迫ってこれば、身体も重ねた。

自分はもうガキじゃない、って……。思いたくて仕方なかった。
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