113 / 172
第6章(3)ツバサside
3-6
しおりを挟む瞳に映る、両脇を捕らえられて連れ戻されそうなのに精一杯暴れて、足掻いて、俺の元に駆け寄ろうとしているレノア。あんな細い腕で、武術なんて何一つ身に付けてない彼女に男の力を振り解ける筈がないのに、俺への想いだけで、レノアは戦ってくれていた。
「……。これは、困ったなぁ」
這いつくばっていた地面から身を起こそうとする俺を見て、ミライさんがため息混じりに微笑む。
叩き付けられた打ち身で全身が痛いし、最初に受けた蹴りのせいで左腕はまだ動かせない。
この場をどうにかして、レノアと一緒に……なんてカッコいい理想的な展開を作る事なんて、今の俺には出来ない。
けど。
何もしないまま諦めて、自分の想いに嘘をつきたくない。
そして、何よりも……。
彼女に自分の想いを伝えないまま、長い間不安にさせる毎日をもう過ごさせたくなかった。
「っ、……レ……ッ……」
さっき言えなかった返事を伝えたかった。
でも、呼吸が上手く吸えないせいで声が出ない。
震える身体で何とか立ち上がってレノアを見ると、今にも泣き出しそうな表情で必死に涙を堪えていた。
……ああ、きっと俺は今までもお前にそんな表情をさせてきたんだろうな?
アッシュトゥーナ家の令嬢としての裏で、女神と讃えられる裏で……。笑顔の裏で、お前はきっと涙を堪えてたんだ。
ーーー心配すんなよ。
俺は必ず、会いに行ってやるからーーー
俺の言葉を信じて。
ーーー俺、夢の配達人になる!ーーー
俺との約束を信じて。
ーーー絶対に絶対に、俺が護ってやる!ーーー
連絡が取れなくなってからも、ただ、俺の事を信じて待っててくれたんだよな?
ごめん、な。約束守れなくて。
ようやく一緒に過ごせる時間があったのに、意地ばっかり張って、全然素直じゃなくて……。
ピンチの時に助けてやれる王子様になれなくて……。
また、お前に寂しい想いをさせる事になる。
……、でも…………。
でも、お前の心は、もう独りぼっちにしない。
「!!……ツバ、サ?」
俺を見つめながら、レノアが名前を呟いてくれた。
潤んだ、その宝石のような美しい瞳から心に語り掛けるよ。
ーーー俺も、お前と一緒に居たい。
レノア、ずっと変わらず愛してるーーー
レノアが首に掛けてくれた夜空のペンダント。
まるで彼女の想いのように強くて、ガラスの筈なのにあれだけの衝撃を受けて割れていなかった。
まるで、"何があっても、俺達の想いは壊れない"と言ってくれているかのように……。
俺は夜空のペンダントを右手で持って口元に引き寄せると、そっと口付けて、言葉に出来なかった想いを彼女に向けるように微笑んだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

〜復讐〜 精霊に愛された王女は滅亡を望む
蘧饗礪
ファンタジー
人間が大陸を統一し1000年を迎える。この記念すべき日に起こる兇変。
生命の頂点に君臨する支配者は、何故自らが滅びていくのか理解をしない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる