44 / 172
第3章(3)レノアside
3-4
しおりを挟む
***
「お母様!ツバサはっ?
まさか彼に、何かおっしゃったのではありませんかッ……?!」
二十歳の誕生日前夜祭が終わった。
これでようやく、アッシュトゥーナ家の娘としての役割を終えた。
そう思いながら招待客のお見送りをしていると、ツバサの姿は会場にもその付近にも見当たらなかった。
まさか、と思い問い詰めると母はいつもと変わらず冷静に口を開く。
「ツバサは自分の立場も貴女の事も全て理解しているようでしたよ?
レノアーノ。貴女も彼を見習い、前だけを見なさい」
「っ……お母様!」
「レベッカ、私は先に邸に戻ります。レノアーノと後の事は任せましたよ」
「待って!お待ち下さいッ……お母様!!」
私の呼び掛けになど、母は振り向く事はない。
遠ざかっていく背中に"無駄だ"と悟った私はグッと自分の感情を押し込むと、母の言葉に一礼し見送っていた専属の女執事レベッカに声をかけた。
「……今日は、司会者に化けて側に居てくれたのね?いつもありがとう」
「いえ、勿体ないお言葉です」
レベッカは頭を上げると、変装用に被っていた黒いウィッグと伊達眼鏡を外し、元の美しい金色の髪と碧眼《へきがん》の姿に戻って微笑む。
彼女は私より5歳年上で、アッシュトゥーナ家の娘になったと同時にずっと付いてくれている執事。女性の執事、というと珍しいかも知れないが、彼女は文武両道で"普通の男性よりもよほど頼りになる"と父ヴィンセントが私に専属の執事として付けてくれた。
普段は元の姿のまま私の側に居てくれて、身の回りの世話や護衛をしてくれるのだが、今日のような祝いの席では"明らかな警備"ではなくその場に自然と溶け込める姿に変装して、陰ながら私を護ってくれる。
それで、今日は司会者となり、側に居てくれた訳だ。
「お母様!ツバサはっ?
まさか彼に、何かおっしゃったのではありませんかッ……?!」
二十歳の誕生日前夜祭が終わった。
これでようやく、アッシュトゥーナ家の娘としての役割を終えた。
そう思いながら招待客のお見送りをしていると、ツバサの姿は会場にもその付近にも見当たらなかった。
まさか、と思い問い詰めると母はいつもと変わらず冷静に口を開く。
「ツバサは自分の立場も貴女の事も全て理解しているようでしたよ?
レノアーノ。貴女も彼を見習い、前だけを見なさい」
「っ……お母様!」
「レベッカ、私は先に邸に戻ります。レノアーノと後の事は任せましたよ」
「待って!お待ち下さいッ……お母様!!」
私の呼び掛けになど、母は振り向く事はない。
遠ざかっていく背中に"無駄だ"と悟った私はグッと自分の感情を押し込むと、母の言葉に一礼し見送っていた専属の女執事レベッカに声をかけた。
「……今日は、司会者に化けて側に居てくれたのね?いつもありがとう」
「いえ、勿体ないお言葉です」
レベッカは頭を上げると、変装用に被っていた黒いウィッグと伊達眼鏡を外し、元の美しい金色の髪と碧眼《へきがん》の姿に戻って微笑む。
彼女は私より5歳年上で、アッシュトゥーナ家の娘になったと同時にずっと付いてくれている執事。女性の執事、というと珍しいかも知れないが、彼女は文武両道で"普通の男性よりもよほど頼りになる"と父ヴィンセントが私に専属の執事として付けてくれた。
普段は元の姿のまま私の側に居てくれて、身の回りの世話や護衛をしてくれるのだが、今日のような祝いの席では"明らかな警備"ではなくその場に自然と溶け込める姿に変装して、陰ながら私を護ってくれる。
それで、今日は司会者となり、側に居てくれた訳だ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~
雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
◇SS/閑話「ミレッタの正体」を公開しました。//
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――?
私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。
「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。
多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。
そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。
「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で??
――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。
騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す?
ーーーーーーーーーーーー
読者様のおかげです!いつも読みに来てくださり、本当にありがとうございます!
読みに来てくださる皆様のおかげです!本当に、本当にありがとうございます!!
1/23 HOT 1位 ありがとうございました!!!
1/17~22 HOT 1位 ファンタジー 最高7位 ありがとうございました!!!
1/16 HOT 1位 ファンタジー 15位 ありがとうございました!!!
1/15 HOT 1位 ファンタジー 21位 ありがとうございました!!!
1/14 HOT 8位 ありがとうございました!
1/13 HOT 29位 ありがとうございました!
X(旧Twitter)やっています。お気軽にフォロー&声かけていただけましたら幸いです!
@hcwmacrame

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる