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第2章(2)ツバサside
2-2
しおりを挟むでも……。
頼み事を聞いて、兄が俺を酔わせて陽気にさせてからこの話を切り出そうとしていた理由を理解する。
「ツバサにさ、これに僕の代わりに出席してほしいんだ」
そう言って差し出されたのは、二つ折りにされた綺麗な何かの招待状。
代行任務?
依頼人に代わってその場に行き、何らかの仕事をする任務だ。夢の配達人の任務では決して珍しい仕事ではないが、兄からされた頼み事の中では初の事。
一体どんな内容かと、受け取った招待状を開いて目を通すと……。
「!ッーー……これ、っ」
全ての内容を読む前に、俺はある一文に釘付けになった。
そこに書かれていたのは……
ーーーレノアーノ誕生日前夜祭ーーー……。
レノアーノ。
それは今朝夢に出てきた少女、レノアの本名。
兄から渡された招待状は、彼女の二十歳の誕生日を祝う前夜祭のものだったのだ。
内容を知って、招待状を持つ手が微かに震える。
そんな俺に兄は話を続けた。
「行く時は僕に変装する必要ないから、ツバサはツバサとして家族の代表で出席してほしい」
「っ……」
「当日は迎えも着て行く服も用意するから、ツバサはそのまま……」
「ーー悪い兄貴、これだけは無理だッ……!」
動揺を抑えて断ろうとしたのに、俺の口から出た声には明らかに心の震えが混じっていた。
だって、無理だ。
今更レノアに会う事なんて、出来ない。
何故なら俺は最後レノアが会いに来てくれた時に、酷い事を言って追い返したのだ。
それは、俺が16歳になって……。そう、父さんが亡くなって一年位経った日の事。
俺とレノアは彼女の母親が結婚して以来全く会えなくなって、唯一の繋がりはたまにする文通だった。
けど、俺は父さんの死をキッカケに手紙を書くのをやめて、またレノアにそれを報告する事もなかった。
俺が手紙を書くのをやめてからも、レノアからの手紙は暫く届いた。内容は「どうして夢の配達人を辞めちゃったの?約束、忘れちゃったの?」って事。
彼女は俺の活躍をいつも夢の配達人の事が書かれた新聞や雑誌を見て楽しみにしていたみたいだから、そこで引退を知ったんだと思う。
父さんが死んだから、夢の配達人を辞めたーー。
俺は、それをどうしてもレノアに言えなかった。
言いたく、なかったんだ。
普通に生活していれば、俺と彼女が会う事はない。
無視し続けていれば、いつか忘れる。
そう思っていた。
けれど、手紙来なくてなってもう終わったのだと思っていた矢先……。
『夢の配達人を辞めた理由、どうして言ってくれなかったのっ?
お父様が亡くなったって、何で教えてくれなかったの?!』
何処からか真実を知ったレノアが、俺に会いに来てそう問い詰めてきた。
そんな彼女に、俺は言った。
ーーー言って何になるんだよ?父さんを救ってくれた?
大体、今更なんだよ。お前は今まで父さんの事、知らなかったんだろ?知らずに過ごしてきたんだろ?
……そういう事だよ。俺とお前は住んでる世界が違う。俺達の生活なんて知らなくても生きていける、そうだろ?ーーー
父さんの死を俺からレノアに報せる事はなかったが、仕事で少なからず繋がりはあったし、彼女の母であるミネア様には"父さんの友人だから"と兄が報せを送っている筈だった。
それでもレノアの耳に入る事がなかったと言うのならば、それはミネア様が教える必要ないと口外しなかったという事。
そしてレノアは、外の世界の事なんて知らない程大切にされる姫のような存在なのだという事。
そんなレノアを、俺は追い返したんだ。
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