片翼を君にあげる①

☆リサーナ☆

文字の大きさ
上 下
22 / 172
第2章(1)ツバサside

1-1

しおりを挟む

「ふぅ~……」

夕食後。
俺はベランダに出ると、柵に肘を着いて一息ついた。

胃がはち切れそう。
てか、気持ち悪い……。

久々に姉ヒナタと兄ヒカルが二人同時に遊びに来て嬉しかったんだろうな。母さんは張り切って、せっかくみんな揃ったんだから少し早いけど俺の誕生日パーティーをしよう、ってなって、夕飯を大量に作った。
おまけにデザートにはでっかい誕生日ケーキが出てきて……。

「っ……さすがにキツ」

朝は生クリームたっぷりの甘いフレンチトースト、夜は生クリームがたっぷり塗られたスポンジケーキ。
ケーキに乗っていたイチゴが唯一の救いで最後に食べたが消しきれず、口の中にはずっと苦手な生クリームの甘さが残っている。

現在の状況は、母さんの前では平然を装って食べていたが、次第に胃もたれしてきて外の空気を吸いにベランダに来た、という訳だ。
すると……。

「ツバサ、大丈夫?」

「!……っ、なんだ姉貴か」

声を掛けられて一瞬母さんと似ている声に驚いたが、振り向いた先に居たのは姉だった。
姉は声もだが顔も母さんによく似ている。髪型がセミロングだからすぐに分かるが、髪を腰まで長くされたらパッと見他人には分からないだろう。
19歳で姉を産んで、母さんは現在44歳。見た目がいくつになっても若くて、よく姉妹に間違われるくらいだ。

姉はベランダに出てきてガラス戸を閉めると、隣に来て俺の頭をくしゃっと撫でる。


「あんたさ、まだ母さんに言ってない訳?嫌いな物は嫌い、ってハッキリ言わないと……!
今日のメニューなんて、あんたの誕生日パーティーなのに父さんの大好物ばっかりじゃない」

そしていきなりお説教。
7歳年上の姉は、世話焼きでちょっと口うるさい。

けど、すごく優しい。
俺のちょっとした変化にも気付いてくれたり、ダメな事はダメって言ってくれたり、まるで第二の母親みたいで逆らえない。
だから、怒られているのになんだか心地良くて、俺は思わず微笑ってしまうんだ。

「もう、何微笑ってるのよ!私はね、あんたの事が心配で……」

「分かってるよ、ありがと。
それより、姉貴の方はどうなの?ミライさんとなんか進展あった?」

「っな……!」

俺が質問返しをすると、姉の顔は一瞬でボッと赤く染まる。

姉の職業は怪我をした人の応急処置をしたり医師の補佐をする看護師で、現在は夢の配達人の隠れ家に勤めている。
ミライさんって言うのは現在白金バッジの夢の配達人の1人であり、最高責任者マスターさんの息子であり、俺の元師匠。
そして、姉の長年の片想いの相手だ。

両親の知り合いだから子供の頃から知っているとは言え、ミライさんは姉の8歳上。
夢の配達人でしかも白金バッジともなると一年間ほぼ休みなしに仕事で各地を飛び回るから、普通に生活をしていたらまず会えない。
けど、看護師研修を終えて就職先が隠れ家と聞いていたから少しは何らかの進展があるのでは?と思っていたのだが……。
姉の反応を見る限りたいした進展はなさそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

異世界転移した優しい旅人は自分を取り巻く愛と呪いに気付かない

知見夜空
ファンタジー
生まれつきの病により18歳で命を落とした神凪命(かんなぎみこと)は、気が付くと『神の宝物庫』と呼ばれる場所に居た。 神の宝物庫は未練を抱えて死んだ魂たちが集まる場所。 そこでは魔法の道具を1つ選び、そのままの姿で異世界に行く『転移』と、高い能力や身分を持った現地人として生まれ変わる『転生』が選べる。 「でも君には『全知の鏡』である俺を持っての転移を選んで欲しいんだ」 全てを見通す鏡の賢者に自分を人間に戻して欲しいと頼まれたミコトは、彼とともに異世界へ旅立つ。 彼を人間に戻す方法を探すとともに、今度は自分が誰かの力になりたいという、彼女自身の願いを叶えるために。 素直で健気な旅人ヒロインが魔法の道具たちを駆使して、たくさんの人を幸せにする愛と魔法の異世界ファンタジー(このお話は小説家になろうにも投稿しています)。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ!

川乃千鶴
ファンタジー
気が向いた時しか仕事をしない。好きな言葉は「一攫千金」。 ぐうたら魔女のエファリューは、家賃滞納、ツケの踏み倒しの常習犯。とうとう首が回らなくなり、夜逃げ同然で街を抜け出した。 夜の闇にエファリューは嘆く。 「ああ! なんの見返りも求めず、ただただわたしをひたすら甘やかして養ってくれる、都合のいいお貴族様をお恵みください!」 逃亡先で出会ったのは、隣国の姫君の側近を名乗る眉目秀麗な青年アルクェス。 彼はエファリューに跪き、熱烈に彼女を求めるのだった。 「何もしなくていい。ただただ其処にいて、気が向いた時に微笑んでくれる程度でいい。だからどうかお願いいたします! これから一生、貴女を囲う許しをください!」 しかしそれは求婚でもパトロン宣言でもなくて 行方不明の姫君の身代わりを務めよとの脅迫であった──。 ※舞台設定的に「六畳一間」の概念はありませんが、イメージが伝わりやすいようこの単語を使用しております。 ※聖職者の階位等の名称は造語です。ふわっとファンタジー設定です。 ※他サイトにも同名義同タイトルで連載中です。まとまってからこちらに移しています

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

処理中です...