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第1章(2)ツバサside
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しおりを挟む「お前さぁ、途中で仕事ほったらかしたハンパもんのクセにいい気になってんじゃねぇぞ?」
「わざわざそんなレベルも高くない地元の学校に来て、凡人のオレ達に能力の差見せつけて、そんなに優越感に浸りたいのかよ?」
「せっかく声掛けてやったのにその諭すような口調、何か上からの目線でムカつくわ~。
やっぱ夢の配達人って金の亡者なんだな?」
三人は笑いながら、俺に言った。
ほら、こうなるから嫌だった。
だから、クラスメイトの誰とも絡みたくなかったし、目立ちたくなかった。
そうだよ。
理由はどうであれ、俺は夢の配達人の仕事を途中で投げ出して、最高責任者や依頼人、たくさんの人達の期待や夢を裏切った。
『っ……お願い、ツバサ!
危険な事はもうしないでッ……遠くに行かないでっ?
あなたにまで何かあったら、私はもうっ……生きていけないッ!』
大事な大事なあの日。
白金バッジに昇格する為の試験に、俺は行かなかった。
行ける訳、ないじゃん。
俺を引き止める母さんに掴まれた衝撃で外れた眼帯。封印が解けた左目が、"お前が行けば、母親の命が消える"……そう、告げた。
他にもっといい選択肢があったのかも知れない。
けど、夢の配達人だって所詮はただの人間。
自分の夢or母親の命ーー。
急に天秤に掛けられて、どうしたら最善の道だったのか?なんて、当時15歳の俺には考えられなかった。
「……じゃあ、どうすれば良かったんだよ?」
「!……あん?」
俺の呟きに、三人が反応した。
それを見て、思わず自分の口から言葉が出てしまっていた事に気付いて"しまった"と思った。
じゃあ、どうすれば良かった?
今までずっと胸に秘めてきた想い。
父さんは俺が生まれた時にはすでに夢の配達人は引退していて、母さんの祖父の会社を引き継いでいた。
「昔お母さんには寂しい思いをたくさんさせたから、これからは普通に側に居たい」って。
兄貴に会社を任せられるようになったら、母さんと二人でゆっくり平穏に暮らしたいなって、言ってたんだ。
普通に、平穏に。
そう望んでいた父さん。
あの時、俺が夢の配達人を辞める理由を父さんの死にしていたら……どうなっていたと思う?
悪い記者や、噂好きの人間達の格好の餌食になっていただろう。
批判を受けるのは、俺一人で十分だ。
これ以上母さんが傷付かないように、泣かないように、耐えて堪えて、時が経って大人になれば……。みんなが俺の事を忘れるくらい、早く刻なんて過ぎ去ってしまえばいい、ってずっと思ってた。
そう思って、色んな事を秘めてきたのに……。
ーーしかし、後悔しても遅い。
出てしまった言葉を取り消す事は出来ず、三人の中のリーダーらしき男子生徒が俺の胸倉を掴んで引き寄せる。そして……。
「文句あんなら言ってみろよーー」
そう口にしながら、拳を振り上げるのが見えた。
これはもう、騒ぎを大きくしない為にも一発もらおう。
仕方ない、と自らの失言を認めると、覚悟を決めて歯を食いしばった。……が、その直後。
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