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第1章(2)ツバサside
2-2
しおりを挟むずっと実力を発揮せず抑えていたのと、これまで「頭良いからって調子に乗るなよ」てな感じで少しばかり虐めにあっていた我慢がたたって、やってしまった失態だ。
高等部での生活はもう1年もないが、ここはなるべく穏便に済ませたい。
「あ、あのさ……。悪いんだけど、家の都合で放課後はなるべく早く家に帰りたいんだ。
それに最後の試合なら尚更、今まで一緒に頑張ってきた部活仲間と試合に出る方が良い思い出になるんじゃないかな?」
しばし考えた末、トラブルを避けたかった俺はやんわりと微笑みながら大人しい口調にしてそう言った。
本当は「ヤダ」「無理」「断る」って軽く流してさっさと食堂に走りたいところだが、ここは我慢だ。
今まで築いてきた"優等生"としての自分を崩す訳にはいかない。
そんな心境で返答を待っていると、頭を上げた三人のうちの一人が「分かったよ」って呟いた。
その言葉に思ったよりあっさり引き下がってくれて良かった、とホッとする俺だった。が、それも束の間……。
「力になれなくてごめんね。じゃあ……」
「ーーさすが元夢の配達人様。金にならない事に興味はありません、ってか?」
その場を去ろうとした俺にそう言って、三人は周りを取り囲んだ。
「知ってるぜ、お前だろ?
数年前に騒がれてた伝説の夢の配達人の息子って……」
そう言われて、俺の心臓がドクンッと嫌な音を立てた。
夢の配達人ーー。
それは、俺達の世界にある職業の一つ。
Jack of all trades、いわゆる何でも屋。
その中で特別に選ばれた人物の組織。
依頼人の目的や願いを叶える事から、”夢の配達人”。そう名付けられていた。
夢の配達人の手にかかれば、どんなに困難な事も解決したり、欲しかった物が手に入ったり、願いが叶ったりする。
だが。そんな夢を叶えてもらえるのは選ばれた人物のみで、勿論、無料ではない。
仕事が困難だったり、長期にわたる仕事だと多額の報酬が必要で、金持ちにしか雇えない存在。
大金を積んで仕事を依頼しても、引き受けてもらえるか分からない上に順番待ちが殺到中。
一般庶民にとってはその存在自体が夢だった。
更にその夢の配達人の中には順位があり、各自が持つバッジの素材で分けられている。
S→プラチナ(白金)
A→ゴールド(金)
B→シルバー(銀)
C→ブロンズ(青銅)
俺の父親はかつて、この中で最高位のSランク。白金バッジを持ち、その地位を最年少の16歳で取得してから19年もの間守り続けた、未だ破られていない記録を持つ伝説の夢の配達人と呼ばれる人物だった。
……そして。
俺自身も15歳まで、Aランクの金バッジを持つ夢の配達人だった。けど……。
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