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序章 ツバサside
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しおりを挟む誰かと一緒に隠れるという事は心細く感じる事はない分、1人が物音を立てたりすれば見つかる可能性が高い訳で……。普段なら誰かと一緒に隠れたり絶対にしない俺だったけど、この時はレノアの瞳が潤んでいるように見えて、普段とはなんだか違う気がして……。その申し出を受ける事にした。
「いいよ、一緒に隠れよ。
でも、全然見付けてもらえなくて退屈かもよ?」
俺はかくれんぼが、かなり得意だった。
いつ、何処でみんなとかくれんぼをしても大体は鬼が見つけられず時間切れで勝ち。
例え見つかるとしても、いつも最後だったから。
しかも今回は俺の住んでいる港街にある、自分の庭とも言える広場がかくれんぼの場所。誰よりも上手く隠れる自信があった。
けれど、それはつまり隠れている時間が長いという事。
俺は物陰から鬼の様子を伺ったり、いつ見つかるか分からないドキドキ感が嫌いじゃなかったからいいけど、じっとしているのが苦手な人からしたら実に退屈な時間だろうから。
しかし、レノアは俺の心配をよそに言った。
「……いいの。今日は、絶対に見つかりたくないから」
そう言う彼女の何処か悲しそうな表情を見て、俺は子供ながらに"何かあるんだ"って感じた。
それと同時に、レノアがみんなの中から俺を選んで頼ってくれた事が嬉しかった。
「オッケー!
んじゃ、とっておきの場所行こうぜ!」
「!……うん!」
手を取って駆け出したら、レノアがやっと微笑ってくれて……。俺はその笑顔を、ずっと見ていたいって思った。
レノアを連れて来たとっておきの場所とは、広場の脇にある祭りやイベント時に使う屋台用の道具が保管された小さな倉庫の上。
この倉庫の両側と背後は木に覆われており、倉庫の上の部分には生い茂って葉をつけた枝が上手い具合に生えていて、背丈の低い子供の俺達を隠してくれる。
上に登るには周りの木を使って登る必要があるが、この上からなら鬼の様子が伺えるし、仮に鬼が近付いてきて危険を感じたら相手が登ってくる反対側から降りて、倉庫や木を死角にして逃げる事も可能だった。
問題は倉庫の上に登るための木登りなのだが……。
「平気?」
「っ……これくらい、なんともないもん!」
女の子には少し厳しそうな木登りにも関わらず、レノアは余程見つかりたくないのか俺の後について登ってきた。
俺が手を貸したのは、最後に木から倉庫上に移る時くらいで……。その時の懸命な姿は、今でも心に強く焼き付いている。
何とか鬼が100数え切るまでに身を隠す事に成功した俺とレノアは、声を潜めてただただ時間が過ぎるのを待っていた。
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