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第7章(4)ツバサside
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しおりを挟む店主さんがミネア様に惹かれたのは、あっという間だった。
互いの気持ちを言葉にする事はなかったから、ミネア様が同情だったのか、それとも本気だったのかは分からなかったが……。彼女はその後も、何度も何度も、店主さんの露店を訪れた。
そしてある日、一夜を共にしたーー……。
「彼女の素性は知らなかったし、当時婚約者が居たと言う話も知らなかった。全て……全て、後から知った。
突然彼女が来なくなって……。それでも、またいつか来てくれる日が来るかも知れない、と生きていたら、彼女が有名な令嬢で、"レノアーノ"と言う娘を未婚で産んだ事を知ったんだ」
まさか、と思ったらしい。
そもそも店主さんは、自分がレノアーノ像の本当の作者だと言う真実をミネア様には伝えてはいなかった。
しかし、偶然にしては出来過ぎているし、婚約者が居たのにも関わらず、子供の父親がその婚約者ならば未婚で産むのもおかしい話だ。
けれど、自分に何も言わずに去ったミネア様の事を思うと、何も言えず、何も行動する事が出来なかったそうだ。
そして、月日が過ぎてーー……。
「そして去年の夏。君とレノアーノ様がここに来た、と言う事だ。
不思議な……巡り合わせ、だな」
そう言って、店主さんは苦笑いした。
不思議な巡り合わせ。
いや、俺には、運命だと思った。
「ミネア様が産まれた娘に"レノアーノ"と名付けたのは、偶然なんかじゃない。貴方と過ごした時間の中で、俺が感じたようにミネア様も感じ取って……。例え離れていても、貴方が気付くように"レノアーノ"と名付けたんだ」
でも、きっとミネア様は言えなかった。
店主さんの心の奥底に、今も亡くなった奥さんが居て、自分はその傷付いた隙間を束の間埋めた身代わりに過ぎなかったから……。
この二人の愛が、綺麗なのか、薄汚れたものなのかは分からない。
けど、俺は思う。
確かに寂しさから互いを求め合った理由を愛と言ったら不純だが、互いを必要と感じ、助け合って、その二人が今も生きているのならば……。その時間の中には、大切な、掛け替えのない、嘘偽りのない愛が確かにあったのだ、と。
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