144 / 146
第7章(4)ツバサside
4-3
しおりを挟む作品一つ一つに感じる愛情、情熱、想い。
それを感じた俺の勘のようなものだった。
「あとは、この店の名前『emina』。
この名前には貴方の奥さんの名前の他に、もう1人の名前が組み込まれている。
『emina』を並べ替えると、m、i、n、e、a……ミネア。レノアの母親、ミネア様の名前にもなる。そして……」
「ーー……そうだよ。この店にはイヤリングばかりでピアスしかないのは、私が愛した女性が二人とも「耳に穴を空けるのが苦手」と言ったからだ」
俺が言おうとした事を、店主さんは自ら口を開いて言った。
そして、過去を思い出すように話し始めた。
「まさかあのミネア様が、ピアスではなくてイヤリングだなんて驚きだよね?
彼女と出逢ったのは、盗作に合った上にもう二度と作品を造れないように右腕を切られて……。おまけに、妻に先立たれて全てに絶望していた最中だった」
それは、聞いているだけでも辛く悲しい過去だった。
売れない彫刻家として、貧乏でも奥さんと幸せに暮らしていた店主さん。なかなか世間に認めてもらえないけれど、「貴方には才能がある!いつか必ず輝ける日が来る!」と、奥さんはいつも支えてくれていたそうだ。
そして、そんな奥さんの為にも店主さんは自分に出来る精一杯を注いで、あの作品を……。育みの女神レノアーノ像を造り上げた。
その素晴らしさに目を付けたのが、ローレンツだった。
ローレンツは店主さんに「私にこの作品を譲ってくれたら大金をやる」と言った。
運が悪い事に、この時店主さんが作品を出展していたコンクールの代表がローレンツで、断れば丹精込めて造り上げたレノアーノ像は世に出ないどころか壊されてしまうと圧力をかけられた。
更に、その頃奥さんが病を患っていて、すぐにでも大金が欲しかった店主さんは……ローレンツに作品を渡してしまったのだ。
「バカだよなぁ……」
と、店主さんは呟いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる