片翼を君にあげる③

☆リサーナ☆

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第6章(5)ミライ&瞬空side

6-5-2

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「僕は、良い兄じゃなかった。
ノゾミからしたら嫌な奴で、大嫌いだと思うけど……。それでもやっぱり、僕は兄だから」

そう言葉にしたら、自然と笑みが溢れた。

「妹を泣かせる奴は、許せないんだ」

柄にも無い台詞を言って、瞬空シュンクウを見つめた。

すると、瞬空シュンクウも……。

「あの日……。
ノゾミが攫われた時、あの子はこう叫んでいた。『お兄ちゃん!お兄ちゃん!助けてっ……!!』と」

僕の知らなかった妹の想いを、僕を真っ直ぐに見つめて伝えてくれる。

そして……。

「ノゾミは、貴殿の事が大好きだ。
少し……。いや、かなり……妬けますな」

自らの本音想いも口にして、優しく笑みを浮かべた。
その表情からは確かに、遊びではなく妹を想う気持ちを感じ取る事が出来た。

「最初私に近付いてきたのも、おそらく貴殿に構ってもらえぬ寂しさ故。
歳上の存在に甘えたくて、兄に出来ぬ事を、言えぬ事を私で満たしたかったのでしょうな」

そう言う瞬空シュンクウを、もはや「妻がありながらも妹をたぶらかす嫌な存在」と思う感情は薄れていた。

けどーー……。

「っ、瞬空シュンクウーー……ッ!!!!!」

僕達の方に向かって……。
いや、目の前の瞬空シュンクウに向かって熱い声が投げかけられた。

「何やってますのっ!!貴方の力はこんなものじゃないでしょうっ?!
負けたら絶対にッ……っ、絶対に絶対に!許さないんだからッ!!!」

訓練所に響く声。

その声に。
勝負の最中なのに。
僕と瞬空シュンクウは、同じ方向を……。戦場を囲む塀ギリギリまで来て、必死に、少女のように声援を送るノゾミの方を見た。

その、ノゾミの顔を真っ赤にしながら叫ぶ姿を見て僕と瞬空シュンクウは「フッ」と笑うと、すぐにまた向かい合った。

「「妬ける」か、それはこっちの台詞だよ。
可愛い妹に免じて負けてあげたいけど……。悪いね、それは出来ない」

「手を抜かれては困ります。全力の貴殿に勝たねば、意味がない」

そして僕達は、同時にその場を駆け出した。

……
…………。
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