104 / 149
第6章(1)瞬空side
1-6
しおりを挟む熱が、高まるーー。
「嫌です……っ」
その声に。
温もりに。
感触に……。
ああ。もう、抗えない。
これまで、触れてはいけない、と抑えてきたものが込み上げてくる。
「私はっ……まだ、一緒に居たいッ。
急に今日までだなんて……そんな勝手な事は許しませーー……ッ」
ーー……気付いたら、
彼女の言葉を遮り、強く抱き締めて唇を重ねていた。
自分の中に、こんなにも男としての欲があるなんて……私は、初めて知った。
女性と口付けを交わす事も、身体を重ねる事も初めてではない。
けれどこの時の私は、まるで全てが初めてかのように彼女に溺れていた。
隠れ家の寮の自室に彼女を連れ込むと、汗を流す事もなく、布団を敷く事もせず……。そのまま床に二人で倒れ込み、衣服を脱ぎ捨て絡み合った。
「っ、瞬空……」
名前を呼ばれる声にすら欲情し。
絡め合う指、手の平からでさえ、ゾクリッと駆け巡る熱と快感。
触れ合う肌、繋ぎ合わせる部分は、あまりの熱さに蕩けてしまう感覚に陥った。
「ノゾミ……ッ」
「っ、……。初めて……。
ようやく、そう、呼んでくれましたわね……っ」
ノゾミーー。
そう、無意識にずっと呼びたかった名が口から溢れていた。
……
…………幸せ、だった。
求めて。
求められて。
求め合える事が、こんなにも幸福なものだったのだ、と……私はようやく知る事が出来た。
ヴァロン殿が引退し、夢の配達人としての道を絶っても尚、より幸せそうに輝いていた意味が……私にもやっと分かったのだ。
……
…………。
……けれど。
私とヴァロン殿では、決定的に違った。
私はノゾミを幸せに出来る立場ではなかったのだ。
一線を越えてしまい、「愛している」「妻になってほしい」とは決して口に出来ないこの関係は、すぐに幸せとは言い難いものに変わっていった。
それでも、会ってしまえばまるで磁石が自然と引き合うように求め合ってしまう。
「私達の関係に、愛の言葉も約束の言葉も必要ありません。
その代わり、一緒に居られるひと時だけは、私から目を逸らさないで……」
そんな彼女の言葉に甘えて、何度も、何度も……。私達は言えない想いの言葉の代わりに身体を重ね合った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる