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第5章(1)ツバサside
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しおりを挟むーー……。
……、……違和感は、ない。
この状況的に美味しい、とも思えなかったが、俺は口に含んだ水を飲み込む事が出来た。
ハズレを引かなかった安心感。
これで勝利への道がまた一歩近付き、ミヅクさんを二分の一の確率に追い込む事が出来た喜び。
全く感じなかった訳ではないが、もはや感情が麻痺している言った方が正しいと思えるくらいに俺は一瞬放心状態になってしまった。
生きているのに、生きている心地がしないーー。
それがきっと、この時の俺の心境だった。
そんな俺に、ミヅクさんはクスリッと笑いながら言う。
「これで毒が入っている盃は二つに一つ。
さすがだね、ツバたん。いやぁ~追い込まれちゃったなぁ♪」
相変わらずの明るい声と表情。
窮地に追い込んだ筈なのに、ミヅクさんを見ていると逆に追い詰められている感覚になるのは気のせいだろうか?
っ、……気持ちで負けるなッ。
こんな時、父さんならきっと臆しないと思った。
俺は深呼吸すると気持ちを整えて、ミヅクさんを真っ直ぐに見つめる。
すると、ミヅクさんが今度は少し、優しさを含んだ静かな声で言った。
「キミはキミ、だよ?」
「!……え?」
「キミはヴァロン様の血を引いているけど、ヴァロン様じゃない。
ヴァロン様に似てるけど、ヴァロン様じゃない。
ヴァロン様になる事は、絶対に出来ないんだ」
「……」
「ボクとキミの、戦いをしよう」
俺が、このミヅクさんの言葉の意味に気付くのは……。この少し後に、運命の決断を迫られる時。
そして。
ニコッと笑ったミヅクさんは俺から二つの盃に視線を移すと、その盃を交互に指差しながら歌を歌い出した。
「ど~ち~ら~に、し~よ~う~か~なっ♪て~ん~の~前最高責任者の、ゆ~う~と~お~りっ♪」
天のオヤジーー。
それはミヅクさんにとっての本当の親ではなく、この夢の配達人の前最高責任者であるギャランさんの事。
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