54 / 149
第3章(5)ツバサside
5-3
しおりを挟むランの瞳を通して。
触れられた肌を通して……。彼女の感情が、俺に流れ込むように伝わってきた。
こんなの、あんまりだーー……。
ランの隠されていた本心、本音……。それを今、この場で、初めて知った俺は心の中でそう嘆いた。
幼い頃から一緒に居た筈なのに。
一緒にたくさんの時間を重ねてきた筈なのに。
俺は何一つ、気付く事が出来なかった。
幼馴染み、親戚、親友……。その顔の裏に隠されていた、一途で健気な女の子の顔。
『ツバサ、大好きーー』
……
…………今、この時ばかりは、
誰がランにspellbindをかけ、操っているのか?
なんて、どうでも良かった。
それよりも、何よりも……許せないのは、俺。自分自身だったからだ。
天使の一族の血縁であるランが能力に堕ちてしまったのは、俺への気持ちを抑え込むあまりに出来た心の溝のせいに違いなかった。
「っ、……ラ、ン」
ーー……ごめん。
謝りたい。
けど、謝るよりも他に、俺にはランにしてやらなくちゃいけない事があった。
天使の能力によってかかった暗示を解く為には、いくつか方法がある。
一つ目は、暗示をかけた本人が解く。
二つ目は、暗示をかけた本人が死ぬ。
そして三つ目は、暗示をかけた者と同等、もしくはそれ以上の能力を持つ人物が解く。
つまり、俺ならば……ランにかかっているspellbindを解除する事が出来るんだ。
……けど。それは同時に、ランの命の灯を俺が消す、と言う事になる。
今ランは、spellbindの能力によって、限界の肉体にかろうじて魂がくっ付いているだけの状態。
だからまだ、動いて、喋って、微笑む事が出来ている。
けれど、spellbindを解けば……。それはもう、本当に最期。
ランが、この世からいなくなってしまうーー……。
その現実を、意味していた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる