53 / 149
第3章(5)ツバサside
5-2
しおりを挟む変わり果てた、大切な友人であり身内の姿。
「っ、ラン……!」
俺は、そんなランに語り掛けた。
「ラン!っ……ラン!!
俺だ!ツバサだ!!分からないかっ!?」
嘘だ、嘘だ。
ランがこんな風になってしまうなんて、信じたくなかった。
俺の知っているランは、元気で、明るくて、よく笑って……。落ち込んだり、やる気を失っていると、いつもその元気や明るさを分けてくれて、笑わせてくれるんだ。
あんな、生気のない、変わり果てた瞳をした彼女を信じたくなかった。
……、……けど。
「……ツ……バ、サ?」
ーー…………。
俺の名前をポツリッ、と呟き、視線を合わせられた瞬間。俺は、ある事実を悟った。
……。
…………嘘、だよな?
俺に向かって、力無く青白い顔で微笑む表情。何より、虚な瞳。
その瞳の奥には、すでに……光がなかった。
……え?
…………っ、え……?
……っ、だって…………動い、てる。
今、俺の目の前で……ッ、名前を……呼んで…………。
信じがたい、残酷な現実。
歩い……てるじゃ、ないか…………。
っ、なのに……なの、に…………。
嘘、だよ……な?……、…………ラン。
俺が駆けつけた時には、もう、遅かった。
……もう、手遅れ……なんて…………。
…………。
死んでる、なんて…………。
嘘、だろうーー……?
ーー……ドサッ!!
と、力の抜けた俺は床に両膝を着いた。
脚にも、手にも、力が入らなくて、立ち上がる事が出来ない。
ーーもう、死ん……でる?
それでも、ランから瞳を逸らす事が出来ない。
命の光の灯っていないランの瞳から、俺は瞳を逸らす事が出来なかった。
時間が止まったような俺の耳に届く、靴の音。ランは、力のない笑顔を浮かべたまま、フラフラと俺に歩み寄ってくる。
そして、目の前で自らも両膝を床に着き、ナイフを持っていない左手で俺の頬を撫でながら言った。
「うれ……しい」
「っ……」
「きて……くれた」
「ーー……ッ」
ランと、俺。
二人の瞳から、同時に涙が溢れ出した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる