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第3章(4)ツバサside
4-4
しおりを挟む二階に上がると、長く続く廊下の先に扉の開いた部屋が一ヶ所。おそらくそこが、声が聞こえた場所だ。
俺は走る。何が起こっているのか全くの意味不明で頭の中は真っ白だったけと……。ただとにかく、その場に行く事だけに必死だった。
そして、俺が部屋の前まで辿り着いた瞬間。
「ーー……うるさいっ!!!!!」
また、叫び声。
その声の直後に、俺の身体にドンッ!!と、何者かがぶつかった。
ショートカットの柔らかい黒髪の、幼い頃から当たり前のように一緒に居た大切な人ーー。
声の主も、ぶつかったのも、ラン。
俺にぶつかったランは、名前を叫ぶ隙も、捕まえる隙も与えてくれず、その場を駆け出して行った。
俺は、一瞬動けない。
「ーー……ツバサッ?!」
そんな、廊下を駆けて行くランの背中を呆然と見ていた俺に、俺の到着に気付いたライが言った。
「っ、……行って……くれッ」
震えたその声に目を向けると……。部屋の中には、床に座り込み、俯いたレノアを支えるようにしているレベッカさん。
そして。その側の床には、拳銃と……数ヶ所に渡って血痕があった。
……血痕。
一体、誰のーー……?
「ーーツバサッ!!!」
思考が働かない俺の名を、もう一度ライが呼ぶ。
よく見ると、ライの手や服が、血に染まっていた。
……けど。
それはライのものではない。
「ツバサ!頼むからっ……、姉さんの所に行ってやってくれ!」
絞り出される、心からの悲痛な声は……。小さいのに、どんな叫び声よりも大きくて、強くて、俺の心を貫いた。
「ーー……ッ!!」
現実を見ろ、と。
今俺が何を優先すべきなのか、ライの涙から伝わってきた。
俺は方向転換するとその場を駆け出し、ランの後を追った。床に点々と続く血痕を辿って……、……。
その間に、俺の頭の中には"俺がここに駆けつけるまでに何があったのか"、と言う過去の映像が流れ込んできていた。
幸か不幸か。どうやら未来を見通す能力と、過去を振り返る能力が同時に目覚めたらしい。
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