片翼を君にあげる③

☆リサーナ☆

文字の大きさ
上 下
34 / 149
第2章(3)ランside

3-3

しおりを挟む

階段まで辿り着くと、階段の上からコロコロとリンゴが転がり落ちて来て、私の足にコンッと当たった。
何故リンゴが?と、思わず転がって来たその先を見上げると……。

「!!ーー……大丈夫ですかっ?!」

目に映るのはぶち撒けられた買い物袋と、階段の上の方で胸を押さえてうずくまるお婆さんの姿。私は慌てて階段を駆け上がり、すぐ様その身体を支えた。

引ったくりに突き飛ばされた?
それとも具合が悪いのだろうかーー……?

顔を覗き込んで様子を伺うと、冷や汗をかいて顔色が良くないお婆さんが微笑って言った。

「ああ……すまないねぇ。ちょっと疲れてしまって、階段でつまずいてしまっただけなんだよ」

そう言うお婆さんをとりあえず近くにあるソファーまで連れて行き、転がっていた荷物を拾う。拾った荷物をまとめてお婆さんの隣に置き、もう一度様子を伺うと、確かに外傷はなさそうだが倒れた際にどこかをぶつけている可能性はある。素人判断で大丈夫だろうか?と気になり、私は再び尋ねる事にした。

「本当に大丈夫ですか?
もし辛いようなら、誰か医療関係の人を呼んできますよ?」

「いえいえ、大丈夫よ。落ち着いてきたわ。
ご親切にどうも、優しいお嬢さんね」

「いえ、そんな……。当然の事をしているまでです」

優しい、と言われてほんの少し照れる。
このところ厳しい訓練の繰り返しで、怒られたり注意を受けたりは多々あったが、褒められるのが久々だったせいもあるだろう。
嬉しい言葉に表情を緩ませると、お婆さんが私の左手をそっと握り締めて言った。

「何かお礼がしたいわ」

「え?」

「何か、欲しいものはないかしら?」

「っ、えぇ?!
そ、そんな……いいですよっ」

お婆さんのまさかの言葉に、私は慌てて首を横に振る。
けど、そんな私の手を握るお婆さんはキュッと力を込め、更にじっと瞳を合わせて言った。

「ーー本当に?」

「!っ、……え?」

「本当に、欲しいもの、ないの?」

本当にーー?

ドクンッと鼓動が響いて、まるで時が止まったかのよう。
その言葉が、脳に直接言われているかのように響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...