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第2章(3)ランside
3-3
しおりを挟む階段まで辿り着くと、階段の上からコロコロとリンゴが転がり落ちて来て、私の足にコンッと当たった。
何故リンゴが?と、思わず転がって来たその先を見上げると……。
「!!ーー……大丈夫ですかっ?!」
目に映るのはぶち撒けられた買い物袋と、階段の上の方で胸を押さえてうずくまるお婆さんの姿。私は慌てて階段を駆け上がり、すぐ様その身体を支えた。
引ったくりに突き飛ばされた?
それとも具合が悪いのだろうかーー……?
顔を覗き込んで様子を伺うと、冷や汗をかいて顔色が良くないお婆さんが微笑って言った。
「ああ……すまないねぇ。ちょっと疲れてしまって、階段で躓いてしまっただけなんだよ」
そう言うお婆さんをとりあえず近くにあるソファーまで連れて行き、転がっていた荷物を拾う。拾った荷物をまとめてお婆さんの隣に置き、もう一度様子を伺うと、確かに外傷はなさそうだが倒れた際にどこかをぶつけている可能性はある。素人判断で大丈夫だろうか?と気になり、私は再び尋ねる事にした。
「本当に大丈夫ですか?
もし辛いようなら、誰か医療関係の人を呼んできますよ?」
「いえいえ、大丈夫よ。落ち着いてきたわ。
ご親切にどうも、優しいお嬢さんね」
「いえ、そんな……。当然の事をしているまでです」
優しい、と言われてほんの少し照れる。
このところ厳しい訓練の繰り返しで、怒られたり注意を受けたりは多々あったが、褒められるのが久々だったせいもあるだろう。
嬉しい言葉に表情を緩ませると、お婆さんが私の左手をそっと握り締めて言った。
「何かお礼がしたいわ」
「え?」
「何か、欲しいものはないかしら?」
「っ、えぇ?!
そ、そんな……いいですよっ」
お婆さんのまさかの言葉に、私は慌てて首を横に振る。
けど、そんな私の手を握るお婆さんはキュッと力を込め、更にじっと瞳を合わせて言った。
「ーー本当に?」
「!っ、……え?」
「本当に、欲しいもの、ないの?」
本当にーー?
ドクンッと鼓動が響いて、まるで時が止まったかのよう。
その言葉が、脳に直接言われているかのように響いた。
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