34 / 149
第2章(3)ランside
3-3
しおりを挟む階段まで辿り着くと、階段の上からコロコロとリンゴが転がり落ちて来て、私の足にコンッと当たった。
何故リンゴが?と、思わず転がって来たその先を見上げると……。
「!!ーー……大丈夫ですかっ?!」
目に映るのはぶち撒けられた買い物袋と、階段の上の方で胸を押さえてうずくまるお婆さんの姿。私は慌てて階段を駆け上がり、すぐ様その身体を支えた。
引ったくりに突き飛ばされた?
それとも具合が悪いのだろうかーー……?
顔を覗き込んで様子を伺うと、冷や汗をかいて顔色が良くないお婆さんが微笑って言った。
「ああ……すまないねぇ。ちょっと疲れてしまって、階段で躓いてしまっただけなんだよ」
そう言うお婆さんをとりあえず近くにあるソファーまで連れて行き、転がっていた荷物を拾う。拾った荷物をまとめてお婆さんの隣に置き、もう一度様子を伺うと、確かに外傷はなさそうだが倒れた際にどこかをぶつけている可能性はある。素人判断で大丈夫だろうか?と気になり、私は再び尋ねる事にした。
「本当に大丈夫ですか?
もし辛いようなら、誰か医療関係の人を呼んできますよ?」
「いえいえ、大丈夫よ。落ち着いてきたわ。
ご親切にどうも、優しいお嬢さんね」
「いえ、そんな……。当然の事をしているまでです」
優しい、と言われてほんの少し照れる。
このところ厳しい訓練の繰り返しで、怒られたり注意を受けたりは多々あったが、褒められるのが久々だったせいもあるだろう。
嬉しい言葉に表情を緩ませると、お婆さんが私の左手をそっと握り締めて言った。
「何かお礼がしたいわ」
「え?」
「何か、欲しいものはないかしら?」
「っ、えぇ?!
そ、そんな……いいですよっ」
お婆さんのまさかの言葉に、私は慌てて首を横に振る。
けど、そんな私の手を握るお婆さんはキュッと力を込め、更にじっと瞳を合わせて言った。
「ーー本当に?」
「!っ、……え?」
「本当に、欲しいもの、ないの?」
本当にーー?
ドクンッと鼓動が響いて、まるで時が止まったかのよう。
その言葉が、脳に直接言われているかのように響いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる