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第1章(2)ツバサside
2-2
しおりを挟むついつい声を上げて椅子に座っている姉貴の方を見ると、姉貴は小さく「うん」って頷きながら伏し目がちで微笑った。
?……姉貴?
俺には、その笑顔が少し寂しそうに見えた。いつもの、姉貴の明るい笑顔じゃない、って思ったんだ。
その、どこか気不味そうな表情に違和感を覚えると、母さんが言った。
「大丈夫よ、病気じゃなかったの!」
「え?……病気じゃ、ない?」
病気じゃない。
そう言われても、ピンッとこない俺。
だから母の次の言葉に驚いて、俺はまた言葉を失ってしまう。
「そうよ。ヒナタね、おめでたなの!」
「……。……え?」
「おめでたよ、おめでた!
分からない?赤ちゃんが出来たのよ!」
……。
……え?っ、……赤、ちゃん?
目の前の嬉しそうな母の表情を見つめながら、俺は必死に頭の中を整理する。
姉貴が倒れた。けど、それは病気じゃなくて妊娠による体調不良だった。
つまり、おめでたい事。
何とか、そういう考えまでたどり着く。
が、次に俺の中で浮かんだ疑問は……。
ーー……一体、誰との?
「本来ならお付き合いさせて頂いた際にお伺いするのが礼儀なのに、ご挨拶が送れてしまい……。しかも、大切な娘さんを妊娠させてしまい……。
順番が色々と逆になってしまって、本当に申し訳ありませんでした」
俺の疑問と同時に聞こえた、椅子から立ち上がる音と、ミライさんの声。
ゆっくり視線を向けると、ミライさんが母さんに向かって深く頭を下げていた。
その光景を見ても、まだ、突然の現実を受け止めきれない俺の前で、話は進む。
「全然気にしてないわ!相手がミライ君なら私も安心だし大賛成!
お仕事、忙しいものね。私も元白金バッジの妻として、その辺は理解してるから大丈夫よ」
「ありがとうございます」
母さんの言葉に顔を上げて、ミライさんが微笑ってる。
その表情を見て、俺はようやく冷静に状況を理解した。
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