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第1章(2)ツバサside
2-1
しおりを挟むジャナフに荷物を預けて、俺は実家に向かって走った。
『お願い、ツバサ!すぐに帰ってきて!
大変なのっ……ヒナタが、っ……ヒナタがーー……』
それが、電話に出た際に母から言われた言葉だった。
すごく慌てていて、その焦りが俺にも移って「分かった!とにかく、今から帰るから待ってて!」と言うのがやっとだった。
姉貴に、何かあったのかーー……?
心臓が痛い。
走ったせいではない、嫌な胸のドキドキが広がる。
家族を失うのは、もう嫌だーー!!
父さんを亡くした際に感じた恐怖と不安が俺を襲う。
早く、早く、と全速力で走って……。俺は自宅の建物のエントランスにたどり着くと、鍵を解除して、エレベーターを待たずに階段で最上階にある自宅を目指した。
父さん、姉貴を護ってくれーー……。
久し振りの帰宅だったが、「ただいま」なんて言う言葉は全く浮かばなかった。
自宅の鍵を解除して、扉を開け……。玄関を上がると廊下を走り、その先のリビングにある扉をガチャ!!っと開けた。
「っ、母さんッ、姉貴はーー……」
……、……っ、え?
しかし。
リビングに着いた俺は、目に飛び込んできた光景に一瞬何も考えられなかった。
何故なら、リビングに居たのは、母さん、姉貴、そして……、……。
「ーー……っ、ミライ……さん?」
そこに居るのが予想外だった人物に、俺はただただ、目を見開いて見つめていた。
ミライさんも、突然の俺の帰宅に驚いているかのように瞬きもせずに見つめていた。
暫し流れる、沈黙の間。
それを破ったのは、申し訳なさそうにする母の第一声だった。
「ツバサ、ごめんね~!おかえりなさいっ」
「っ、……あ、いや。うん、ただいま……」
座っていた椅子から立ち上がって、微笑む母さん。
母の言葉に、何とかそう言葉を返すが、まだ状況は飲み込めないまま。
そんな俺に説明するように、母さんが言葉を続けた。
「ヒナタが職場で倒れた、って連絡をもらってね。それで、つい、慌てちゃって……」
「!っ、倒れた?!
姉貴、大丈夫なのかよっ?」
母さんの言葉に俺は再び心穏やかではいられなくなる。
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