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第16章 (2)アカリside
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しおりを挟む「……。
実を言うと、あんまり覚えてないんだ」
「!……え?」
ヴァロンの言葉に私は驚いた。
”覚えてない”……?
すごく小さな頃に別れたのならそれも分かるけど、彼が両親と別れたのは確か7歳の時と聞いた。
7歳といえばもう記憶もしっかりしている筈だし、覚えていないなんて普通はあり得ない。
そんな疑問を感じていた私に、ヴァロンが言葉を続ける。
「俺ね、PTSDなんだ。
心的外傷ストレス障害ってやつ。
強烈なストレスとか、精神的なショックで一部の記憶が無くなっちゃうんだってさ」
「っ……」
私の質問に返ってきた予想外の答えに、私は動揺を隠し切れずに言葉を失った。
「全く覚えてない訳じゃ、ないんだけど……。
断片的にしか思い出せないし、両親の顔も……分からない」
自分から聞いておいて相槌も打てない私に、ヴァロンはゆっくりと話してくれた。
リディアさんに引き取られた当初からそんな感じで、よく過呼吸を起こしたり発作を起こして……。その度に、色んな事を忘れていったと……。
医師からは突然記憶が戻る事もあれば、一生思い出せない事もあると診断されたって……。
すごく辛い事の筈なのに、私を気遣う様に……。ヴァロンは微笑んで話してくれた。
「……そんな訳で、昔は病院通ったり薬飲んだりしてたんだけどさ。今は、もう大丈夫。
……黙ってて、ごめんな?」
「っ……そんな、謝らないで……」
優しく頭をポンポンッと叩いてくれるヴァロンを見つめて、私は必死に首を横に振った。
やっと分かった。
今まで話してくれなかったんじゃなくて、ヴァロン自身も……分からなかったんだ。
自分の両親の事なのに、ハッキリしないから話せなかったんだね。
ようやく知る事が出来た一つの疑問。
でも、彼の気持ちを考えると決してスッキリしたとは言えなかった。
でも……。
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