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第16章 (1)ヴァロンside
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しおりを挟む「……っ。
ごめん。ちょっと、寝付けなくて……」
「嘘、付かないでよっ……」
誤魔化そうと口を開いた俺の言葉を、アカリが遮るように言った。
キッと強い眼差しで見上げられてドキッとする。
「……契約先の令嬢様とは一晩同じ部屋で過ごすクセに、私とはもう一緒に寝てもくれないの?」
「!……えっ?」
スッと俺から離れて背を向けるアカリ。
その様子に俺は慌てて首を横に振った。
「ち、違うッ……。
あ、あれはチェスしてただけだって……!」
「……」
本当の話。
確かに言い寄られて迫られたが、キスも、勿論それ以上もしていない。する訳がない。
こんなにアカリでいっぱいの気持ちで、いくら仕事だからって他の女に触れたりしない。
「あんなデタラメな記事、信じないでくれよっ!」
「分かってるよそんな事ッ……!」
信じてもらえないのかと寂しくなった俺に、アカリは振り返るとずいっと詰め寄ってきた。
「分かってるよ……っ。
でも、っ……嫌だったんだもんッ!」
「!……えっ?」
「何もなくてもっ……。仕事だって分かっててもっ……。嫌だったんだから、仕方ないじゃないッ」
涙をいっぱい溜めた潤んだ瞳で、怒った様に見上げられて戸惑う俺の胸を、アカリが拳を作ってドンッと叩く。
「っ……ヴァロンは私の旦那様でしょ?
嫌なのっ……。他の女の人と一緒に居たのもっ……、結婚指輪してないの見た時だって……。辛かったんだから……ッ」
「!……ぁ、……っ」
”嫌だった”、”辛かった”……。
そのアカリの素直な叫びに、俺は何も言えなくなった。
”信じてほしい”なんて、そんな問題じゃなかった。
何もなかったから、いいって訳じゃ……ない。
現に、アカリが泣いてる。
俺のしてきた行動で、泣いてるじゃないか……。
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