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第14章 (1)ユイside
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しおりを挟む”アカリさんに渡せなくて……。
会えなくて、ごめんなさい。”
そんな気持ちを込めてお墓の前に屈んで手を合わせると、サアァ……ッと優しい風が吹いて、まるで私を慰めてくれている様だった。
その暖かい風に思わず笑みをこぼすと……。
横目に、チラッと人の気配を感じた。
顔を向けて、その人を見た瞬間。
時が止まった様な錯覚に陥って、私は呼吸をするのも忘れてその人を見ていた。
薄い栗毛色の髪と、瞳の男性。
長身で、眩しいくらいに輝いていて、絵本の世界から飛び出してきた王子様の様なその人を……。私は知っていた。
でも、リディア母さんが持っていた写真や雑誌は、もう私の年齢と変わらない位に前の物。
それなのに、その写真と変わらない……。
ううん、それよりも更に素敵な雰囲気を持つその姿に信じられなくて……戸惑った。
嘘、でしょう……?
心の中で何度も何度も問い掛けた。
”ヴァロン”……。
一緒に居たアカリさんが、その男性をそう呼んだ時。心臓が、ドキリと跳ねる。
”お母さんはね、ちゃんと出逢えたよ。
格好良くて、優しい。理想の王子様に。
綺麗で、眩しくて。
傍にいると、溶けちゃいそうだった。”……。
リディア母さんの日記に書いてあった言葉通りの人で、見ているだけで私の心は次第に熱くなっていった。
”お父さん”。
そう呼ぶのを、名乗るのを躊躇った私に、ヴァロンさんは気付いてくれた。
私の名前を聞いてくれて、名刺をくれて、いつでも来いって、待ってるって……。ありがとう、って言ってくれた。
……。
あれから、一年経って……。
今年の6月15日もここで会えるかな?って胸を弾ませていたけど、ヴァロンさんは今長期任務に行っていて来られないとの事だった。
けど、リディア母さんの事をちゃんと忘れずに命日にお花を送ってくれた。
本当に、優しくて素敵な男性。
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