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第13章 (3)ヴァロン(マオ)side
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しおりを挟む「正直、すごく悔しいです。
……でも、立ち止まっている暇はないんです」
負けを認めなくては、何も始まらない。
結果を受け止めなくては、前に進めない。
「別の方法で、もう一度お願いに上がります。
必ず、我が社と契約して頂けるように」
俺は頭を深く下げると、顔を上げると同時にロイス様に手を差し出した。
「キサラギの勝利、おめでとうございます!」
不思議と、悔しい筈の俺の口からスッキリ出た言葉だった。
……きっと、以前の俺なら言えなかった。
親に捨てられて、リディアを失って……。
情緒が不安定だったあの頃、表向きは演技していても、心の何処かにあった汚い感情。
俺は”天才”なんかじゃない。
いつも計算して、良い人に見られるよう、完璧に見えるよう、演技してきただけだ。
そんな俺を変えてくれたのは……。
”どうもしないよ。何も変わらない。”
俺を信じてくれる、大切な人。
アカリ、ヒナタ……ごめん。
俺は、また嘘付く事になっちゃったな。
”真っ直ぐ、最短”に帰れなかった。
……でも。
必ず帰るから、もう少し待っててほしい。
俺が新たな気持ちで歩み出そうとした時。
「……。
明日、我が社に来なさい」
俺が差し出した手を取りながら、ロイス様が言った。
「!……。え……?」
「勿論、まだ契約すると決めた訳じゃない。
……ただ、君の話を聞きたくなった」
優しいロイス様の言葉と笑顔に、”マオ”だという事を忘れかけて俺は呆然としてしまい……。
その言葉の意味を、理解するのに少し時間がかかった。
そして……。
「っ……ありがとうございますッ!!」
ハッと我に返ると、飛び上がりたいくらいの感情を抑えて、俺は何度もお礼の言葉を言いながら頭を下げていた。
外はいつの間にか晴れていて、陽が射して……。
空には、輝く虹が架かっていた。
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