夢の言葉と陽だまりの天使(下)【続編③】

☆リサーナ☆

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第11章 (3)スズカside

3-3

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アラン様にマオ様専属の使用人として命じれた時の、ついさっきの……少し前の自分が嘘みたい。
嫌で、怖くて、仕方なかった。筈なのに……。

またも思わずじっと見つめてしまっている私に気付いたマオ様が、首を少し傾げた瞬間。


っ……。

交わった美しい視線に貫かれて、心と身体が騒ぎ出した。

”この人になら”と……。
触れられてもきっと、嫌じゃない。

……ううん。
触れてみたいとさえ、思ってしまう。


私は、おかしくなってしまったの……?

自分の中に湧き上がる初めての感情。
なんだか急に、マオ様に見つめられるのが恥ずかしくなってきて……。
感情が高ぶって涙が溢れそうになった時。


「……じゃあ、まずは自己紹介。
貴女の名前を教えてもらっていいですか?」

「!……。
……。え?……」

「名前です、名前。
このままじゃ、僕はずっと”貴女”と呼ばなくてはいけないんですが……」

呆然とする私に、マオ様が言った。


……そうだった。
極度の緊張からすっかり自己紹介さえ忘れていた。
我に返って姿勢を正すと、私は深く頭を下げる。


「も、申し遅れました。
どうぞ、スズカとお呼び下さい」

「……スズカ?」

「っ……は、はい」

返事する声が上擦ってしまう。
優しいマオ様の声に、自分の名前が特別な言葉の様に響いて聴こえる。


「良い名前ですね。
……ね?スズカって、どんな字書くの?」

「え?っ……あ。
……”鈴の歌”って、書いてスズカ。……です」

「へぇ~。
なんか、歌が上手そうな名前。
いいな、僕は歌が苦手だから羨ましいです」

そう言ったマオ様は私と一定の距離を置いたまま、その後も私の事を色々と聞いてくるばかりで……決して触れてはこなかった。

自然な会話にすっかり引っ込んだ涙。
ホッとした気持ちとなんだか少し残念な気持ちが葛藤した、マオ様と過ごした最初の夜。

………。
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