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第11章 (3)スズカside
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しおりを挟むアラン様にマオ様専属の使用人として命じれた時の、ついさっきの……少し前の自分が嘘みたい。
嫌で、怖くて、仕方なかった。筈なのに……。
またも思わずじっと見つめてしまっている私に気付いたマオ様が、首を少し傾げた瞬間。
っ……。
交わった美しい視線に貫かれて、心と身体が騒ぎ出した。
”この人になら”と……。
触れられてもきっと、嫌じゃない。
……ううん。
触れてみたいとさえ、思ってしまう。
私は、おかしくなってしまったの……?
自分の中に湧き上がる初めての感情。
なんだか急に、マオ様に見つめられるのが恥ずかしくなってきて……。
感情が高ぶって涙が溢れそうになった時。
「……じゃあ、まずは自己紹介。
貴女の名前を教えてもらっていいですか?」
「!……。
……。え?……」
「名前です、名前。
このままじゃ、僕はずっと”貴女”と呼ばなくてはいけないんですが……」
呆然とする私に、マオ様が言った。
……そうだった。
極度の緊張からすっかり自己紹介さえ忘れていた。
我に返って姿勢を正すと、私は深く頭を下げる。
「も、申し遅れました。
どうぞ、スズカとお呼び下さい」
「……スズカ?」
「っ……は、はい」
返事する声が上擦ってしまう。
優しいマオ様の声に、自分の名前が特別な言葉の様に響いて聴こえる。
「良い名前ですね。
……ね?スズカって、どんな字書くの?」
「え?っ……あ。
……”鈴の歌”って、書いてスズカ。……です」
「へぇ~。
なんか、歌が上手そうな名前。
いいな、僕は歌が苦手だから羨ましいです」
そう言ったマオ様は私と一定の距離を置いたまま、その後も私の事を色々と聞いてくるばかりで……決して触れてはこなかった。
自然な会話にすっかり引っ込んだ涙。
ホッとした気持ちとなんだか少し残念な気持ちが葛藤した、マオ様と過ごした最初の夜。
………。
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