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第10章 (2)シュウside

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【翌朝/自宅】

「ヴァロンさんの所へ行くんですよね?
私とミライもご一緒しては、駄目ですか?」

「!……え?」

ヴァロンの元に新しい仕事を届けに行こうと身支度を整えている私に、ホノカさんが声を掛けてきた。

”ヴァロン”。
彼女の口からその名前が出る度に、ドキッとしてしまう。
動揺する心が表れる様に、思わず泳いでしまう視線。

すると、仕事用の鞄をギュッと固く握る私の手に……。
ホノカさんの手が、そっと添えられた。


「……」

優しい、暖かい温もり。

……。

不思議だ。
そう、言えば……。

この前、私がアカリさんが運ばれて来た際に動揺してホノカさんに触れられた時も……。
彼女の手の温もりで、落ち着いた。


結婚した当初は、ホノカさんに触れる度に私は震えた。

ヴァロンの名を呼んだ夜からは、ますます触れられなくなって……。

あの日から……。
ずっとずっと、彼女を避けてきた。


……なのに。
今は、この温もりを心地良いと感じた。

勇気を出してホノカさんを見ると……。
私と目が合った彼女が、微笑った。


「お邪魔はしません、アカリさんが心配なだけです。
それに私が彼女と一緒にいれば、きっとヴァロンさんも安心します。
少しはシュウさんと二人きりで話せますよね?」

「……」

ただ黙って見つめている私に、ホノカさんが言葉を続ける。


「貴方が、マスターの……。
お義父様と同じ意見でなくて、いいと思います。
だって、シュウさんはシュウさんです!」

優しいのに、強い、彼女の言葉。
胸が、トクンッと……鼓動をたてる。


「後悔しない様に、話して来て下さい。
私はヴァロンさんと一緒に微笑っているシュウさんが……。大好きなんです!」

私を見上げる、強い彼女の眼差し。


「……っ」

射抜かれて、目が逸らせない。
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