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第8章 (3)ヴァロンside

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【港街の広場】

「ほい。
これ、この前受けた仕事」

俺は噴水の端に腰掛けて、隣に座るシュウに仕事用のファイルを渡した。
早速中身をパラパラと確認すると、シュウが微笑む。


「いつもながら感心します。
依頼人もビックリのプラスαな仕事ですね」

「あ~。
逆にやり過ぎって、怒られっかもな」

依頼にはなかったが、ついつい相手が見易い様に内容を並べ替えてまとめ上げた資料。
シュウは首を横に振りながら受け取った仕事を自分の鞄にしまうと、おそらく新しい仕事が入った茶封筒を俺に差し出す。


「依頼をヴァロンに担当してもらえて驚く依頼人はいても、怒ったり嫌がる人は絶対にいませんよ」

「……そっかな?ありがと」

俺はフッと微笑みながら、シュウの手から茶封筒を受け取ろうとする。
……が、シュウはその茶封筒を放さない。


「?……シュウ?」

「……。
君がやりたいのは、こんな仕事じゃないでしょう?」

「……」

真っ直ぐ見つめられて、尋ねられて……。
俺はシュウと瞳を合わせたまま、黙り込んだ。


「マスターの……。
父の言葉を気にしているんですか?」

シュウの言葉に、マスターに言われた言葉が蘇る。

『そんな事も分からんのなら、そんなに仕事が大切ならっ……。結婚せず、ずっと独身でおれ。
家庭を持つ資格も、父親になる資格も……お前にはないッ』


「……あれは、ヴァロンに言ったのではなく。
おそらく父の後悔から出た言葉です」

「え……?」

「私の母は……。
私を産んですぐに亡くなっているので……」

シュウは初めて自分の母親の事を、俺に話してくれた。
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